都市計画道路尻手黒川線は神奈川県川崎市を南北に縦貫する幹線道路で、これまで段階的に整備を進めています。尻手黒川線の一部となるトンネル工事の現場が公開されました。
工事の進捗や安全対策を市民に理解してもらい、完成後の施設に対して親しみを持ってもらうことを目的として、川崎市建設緑政局 北部都市基盤整備事務所がトンネル内部の見学会を初めて実施しました。見学会は隣接する住民向け、市立柿生小学校の児童向け、禅寺丸柿まつり(柿生中央商店会主催)と連携した一般向けに、それぞれ別日で開催。このうち、2025年9月22日に実施された小学校5年生の見学会に同行しました。
川崎市麻生区片平2丁目交差点から西側に新たな道路を整備するため、トンネル工事を進めています。
工事の位置図 出所:川崎市建設緑政局
トンネルが完成すると、柿生交差点の渋滞緩和などが見込まれます。
トンネル完成前と完成後の渋滞状況 出所:川崎市建設緑政局
供用している尻手黒川線を背に、片平2丁目交差点を見ます。先に見学するトンネルの工事ヤードがあります。
片平2丁目交差点から見たトンネルの工事ヤード
工事ヤードに入るとトンネルの坑口が現れます。
工事ヤード内にあるトンネルの坑口
トンネルから排出される汚濁水は専用の処理設備で浄化しています。
尻手黒川線のトンネル工事で使用している汚濁水処理設備
トンネル内に入ります。工事着手は2023年10月、トンネルは2025年2月に掘削を開始し、2025年9月現在で約100m掘削しています。
工事が進む尻手黒川線のトンネル内
トンネルは工事延長460.0m、計画幅員16.0m。182.0mの山岳トンネル部と97.5mの開削トンネル部で構成されます。土被りが厚い区間にはNATM工法(ニューオーストリアントンネル工法)を、土被りが薄い区間では開削工法を採用しました。NATM工法を採用したのは、柿生緑地など周辺の住環境への影響を少なくしたいためです。都市部でNATM工法を適用するのは珍しいケースと言えます。
トンネルの平面工事図 出所:川崎市建設緑政局
工事の概要と進行状況、NATM工法についてなど、動画などを用いた説明がありました。
工事の概要と進行状況を聞く児童
NATM工法とは、地山(自然のままの地盤)の自立性を最大限に活用しながらトンネルを掘削する工法です。掘削後にコンクリートを吹付け、ロックボルトを打設することで、トンネルの安定を保ちます。地山の固さや崩れやすさによって、吹付けるコンクリートの厚さやロックボルトの本数を調整し、様々な地盤条件に対応します。
山岳トンネル部概略図 出所:川崎市建設緑政局
NATM工法の作業は以下①〜③の工程を1mごとに繰り返し、1か月で約20m掘り進めます。
①掘削・ズリ出し(掘削作業)
機械で地山を掘削し、掘った土(ズリ)をトンネルの外へ運び出します。
②吹付コンクリート(補強作業)
アーチ状の支保工(鋼材)を設置し、コンクリートを吹き付けることで地山の崩壊や変形を防ぎます。
③ロックボルト打設
ドリルジャンボで削孔し、ロックボルト(鋼棒)を挿入、周辺地山と一体化させます。
④覆工コンクリート(仕上げ作業)
トンネル側壁に防水シートを施工し、仕上げとして鉄筋・型枠を組み立て後、覆工コンクリートを打設します。
切羽に向かって歩きます。トンネル工事で使用している機械や車両が並べられています。
地山を削孔し、ロックボルトを挿入するドリルジャンボ
コンクリートの吹き付けやアーチ状の支保工(鋼材)を設置するエレクター付きコンクリート吹付機
掘削した土砂をダンプへ横方向から積み込むホイールローダー
切羽の手前では、使用している建設機械のデモ運転が披露されました。
先端の部分が回転し、地山を削るように掘るツインヘッダー(右)
エレクター付きコンクリート吹付機がアーチ状の支保工を動かす場面では、その迫力から見学している児童より驚きの声が聞こえました。
アーチ状の支保工を動かすエレクター付きコンクリート吹付機
現場の濁水処理に使用している薬剤を用いた濁水凝集実験と、地山を固める薬液発泡実験も行われました。
凝集実験では、水処理用凝集剤PAC(ポリ塩化アルミニウム)と高分子凝集剤を用いて、トンネルから排出される濁水を処理できる様子を確認しました。
濁水凝集実験により処理された濁水
薬液発泡実験では、シリカレジン注入材AGSRの特殊珪酸ソーダ溶液と変性ポリイソシアネートを混合し、発泡ウレタンを瞬時に生成。薬液を注入することで、地山を補強・改良します。
薬液発泡実験により生成した発泡ウレタン
見学した児童からは「工事で使うどの車両も大きく、見たことがなかったので驚いた」「実験がおもしろかった」といった感想が聞かれました。
川崎市建設緑政局北部都市基盤整備事務所の長谷川智所長は「住宅のすぐそばでNATM工法によるトンネル工事を進めており、日々さまざまな判断が求められている。今回の小学生向け見学会や、地域の祭りを工事現場内で実施する取組を受注者と協力して行っている。地域の皆様と交流を深めながら工事を進め、完成後はトンネルを身近に感じながら利用していただければと思う」と話しました。
トンネルの完成と幹線道路の整備によって、広域的な交通ネットワークの強化、生活利便性や住環境の向上、地域の防災力の向上が期待されています。
2025年10月11日(土)10時〜17時には、柿生駅南口周辺で開催される禅寺丸柿まつりにあわせて一般向けの見学会も予定されています。興味のある方は足を運んでみるとよいでしょう。
■工事の概要
工事名:都市計画道路尻手黒川線道路築造(トンネル)工事
施工場所:川崎市麻生区片平2丁目23番地先
工期:2023年10月19日~ 2026年3月31日
発注者:川崎市建設緑政局 北部都市基盤整備事務所
受注者:西松・森本共同企業体