都市計画道路尻手黒川線は、神奈川県川崎市内を南北に縦貫する主要幹線道路です。2026年1月21日、尻手黒川線の一部となるトンネルにおいて、「尻手黒川線トンネル 貫通式」が行われました。
川崎市麻生区片平2丁目交差点から西側に新たな道路を整備するため、トンネル工事が進められています。2023年10月に工事へ着手し、2025年2月からトンネル掘削を開始、このたび2026年1月に貫通を迎えました。
工事の位置図 出所:川崎市建設緑政局
トンネルが完成すると、柿生交差点周辺の渋滞緩和などが期待されています。
トンネル完成前と完成後の渋滞状況 出所:川崎市建設緑政局
トンネルは、山岳トンネル部(NATM工法)189.5mと、開削トンネル部(開削工法)97.5mで構成されています。土被りが厚い区間ではNATM工法(ニューオーストリアントンネル工法)を、土被りが薄い区間では開削工法を採用しました。
NATM工法とは、地山(自然のままの地盤)の自立性を最大限に活用しながらトンネルを掘削する工法です。掘削後にコンクリートを吹付け、ロックボルトを打設することで、トンネルの安定を保ちます。地山の固さや崩れやすさによって、吹付けるコンクリートの厚さやロックボルトの本数を調整し、様々な地盤条件に対応します。NATM工法を採用したのは、柿生緑地など周辺の住環境への影響をできるだけ抑えるためです。都市部においてNATM工法が用いられる例は、決して多くありません。
工事の平面図と断面図 出所:川崎市建設緑政局
川崎市麻生区片平2丁目側からトンネル部を見ます。工事は市街地に近接した場所で進められており、周辺の住宅地や道路環境への配慮が必要となります。
片平2丁目から見るトンネル部
トンネルの坑口部です。ここから山岳トンネル区間の掘削が進められました。
トンネルの坑口
トンネル掘削着手前の2024年2月、トンネル東側の擁壁施工箇所の一部で、新たに軟らかい地盤が確認されました。当初設計のまま施工を進めた場合、擁壁が想定以上に傾くおそれがあるほか、将来的に傾きが進行する可能性があることが判明したため、施工方法の見直しが必要となりました。
川崎市では地盤改良案、擁壁強化案、トンネル延伸案の3つの対策案を検討しました。その結果、施工費や近隣への影響などを総合的に評価し、トンネルを延伸する案を採用。山岳トンネル部の延長を、当初計画の182.0メートルから189.5メートルへと変更しました。この設計変更により、工事費は約2億7,000万円の増額になり、あわせて工期についても9か月の延長が必要となりました。
延伸したトンネル坑口付近
トンネル掘削工事を進めるにあたっては、主に次の2点が課題となっていました。
・泥岩の固結度が低く、当初想定していたよりも地盤が脆弱
・湧水量が想定よりも多い
これらの課題に対応するため、次のような対策が必要となりました。
・トンネルの補助工法(地盤改良)の追加
・坑内の地面がぬかるみ、建設機械が通行不能となることから、仮設舗装を追加
・湧水を排水するため、排水設備を前倒しで整備
・開削トンネル部において、土留め・仮橋の撤去を前倒しで実施
トンネルの坑内
掘削前に水平ボーリング調査を実施した結果、当初の想定よりも地盤強度が低いことが判明。実際に掘削を進めると地山が脆く、トンネルの切羽や天井部から土砂が剥落する状況が確認されました。このため、工事を安全に継続するには、追加の対策が必要となりました。
そこで採用されたのが、「長尺鋼管フォアパイリング工法」と呼ばれる補助工法です。トンネル掘削に先立ち、天井部から前方の地山に向けて、長さ約12.5m、直径約10cmの鋼管を、水平から8~10度上向きに、トンネルアーチ形状に沿って打ち込みます。さらに、鋼管内部の孔から周辺地盤に発泡剤を注入し、鋼管と地盤を一体化させることで地山を補強します。鋼管と補強された地盤によって、トンネル天井部には傘のような補強アーチが形成され、その下で安全に掘削作業を行えるようになりました。
補助工法のイメージ図 出所:川崎市建設緑政局
当初は、坑口から約70mまでの区間で補助工法を併用する計画でした。しかし、その後の調査結果を踏まえ、70m以降の区間についても補助工法を併用する方針に変更。結果として、11断面分の追加施工が行われることになりました。
貫通式会場が設けられているトンネルの奥へ進みます。
トンネル奥に設けられた貫通式会場
午前10時、貫通式が始まりました。式次第は、開式の辞、貫通の儀、貫通点清めの儀、発注者挨拶、鏡開き、施工者謝辞、万歳三唱、閉式の辞、記念撮影です。油圧ブレーカーにより、貫通作業が行われます。
油圧ブレーカーによる貫通作業
1分ほどの掘削で、トンネルが貫通しました。
貫通作業で光が見えた切羽
貫通の儀の動画です。
貫通状態の確認が行われます。
貫通状態の確認
鏡開きや万歳三唱を行い、約1時間で貫通式は終了しました。
最後の万歳三唱
貫通式で、川崎市の河合征生建設緑政局長は「市街地で地質条件も厳しく難しい工事だったが、施工者の尽力により貫通を迎えることができた」と挨拶しました。西松建設の宗澤敦郎関東土木支社長は「振動や騒音、想定外の地質、湧水など、さまざまな課題を乗り越えて無事に貫通できた。今後のインバート工事や覆工についても、最後まで安全管理を徹底して取り組んでいく」と述べました。
貫通した箇所を反対側から見るため、トンネル坑口の反対側となる開削トンネル部へ移動します。
開削トンネル部に続く仮橋
仮設構台から、貫通した箇所を見ます。この翌日には切羽の撤去に入るとのことです。
仮設構台から見た貫通箇所
開削トンネル部を仮設構台から見下ろします。現在は掘削を完了し、ボックスカルバート(コンクリート構造物)の築造に着手しています。
工事ヤード内にあるトンネルの坑口
今後は覆工コンクリートなどの施工を進め、2027年4月の完成予定に向けて工事が進みます。
■工事の概要
工事名:都市計画道路尻手黒川線道路築造(トンネル)工事
施工場所:川崎市麻生区片平2丁目23番地先
工期:2023年10月〜2027年4月
事業費:約40億円
発注者:川崎市建設緑政局 北部都市基盤整備事務所
受注者:西松・森本共同企業体


