西武鉄道新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業(沼袋駅)

西武鉄道

 西武鉄道新宿線は、西武新宿駅と本川越駅を結ぶ全長47.5kmの路線です。西武鉄道新宿線の中井駅付近から野方駅付近までの約2.4kmについて鉄道を地下化し、道路と鉄道を連続的に立体交差化する「西武鉄道新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業」が実施されています。2023年2月6日、地下化工事が進む沼袋駅を取材しました。

 連続立体交差事業は東京都が事業主体となり、地元区市・鉄道事業者が相互に連携し実施する事業です。本事業では東京都と西武鉄道で施行協定を締結し、同協定に基づき西武鉄道が鉄道工事を行っています。全体事業費は約737億円で、国、東京都、中野区及び西武鉄道が費用を負担しています。連続立体交差事業は鉄道事業者主体による事業と思われがちですが、踏切除却による交通渋滞の解消などを目的とした「道路整備」の一環として施行する都市計画事業として、地方公共団体(※)が事業主体となって実施します。2027年(令和9年)3月末までの完成を目指します。
※都道府県または政令指定都市・特別区・人口20万人以上の都市

 本事業により7ヵ所の踏切を除却することで交通渋滞が解消します。また、本事業に伴い、新井薬師前駅と沼袋駅が地下化されます。約1年前の2022年1月には西武新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業 新井薬師前駅を取材しました。

中井駅─野方駅間における連続立体交差事業の主な事業効果には、次のようなものがあります。
 ・踏切による交通渋滞や踏切事故の解消
 ・鉄道による地域分断の解消
 ・鉄道の安全性の向上、踏切経費の節減
 ・駅周辺の整備、交通アクセスの改善

photo工事区間の周辺地図 資料:西武鉄道新宿線連続立体交差事業の概要

 施工方法は大きく2つに分けられます。地上から掘削工事を行ってトンネルを作る開削工法と、シールド機を使ってトンネルを作るシールド工法です。開削工法は、地下から地表への移行区間である取付部および駅部にて行います。シールド工法は、駅間などの一般部にて行います。なお、シールド機は開削区間である駅部では掘削を行わず、そのまま通過します。

 工事は5工区に分けられ、沼袋駅は2工区・3工区になります。

photo工事区間の詳細地図 資料:西武鉄道新宿線連続立体交差事業の概要

工区名、企業体名、区間・延長は以下の通りです。
 1工区(西武新宿方取付部、新井薬師前駅部)
  鹿島・鉄建・戸田・五洋建設工事共同企業体
  妙正寺川─新井薬師前駅 工事延長556m
 2工区(沼袋駅部)
  大林・前田・フジタ・飛島建設工事共同企業体
  工事延長166m
 3工区(沼袋駅部)
  清水・熊谷・鴻池・竹中土木建設工事共同企業体
  工事延長243m
 4工区(所沢方取付部)
  西武・大成・安藤間・大豊建設工事共同企業体
  沼袋第3号踏切付近─野方駅 工事延長487m
 5工区(シールド区間)
  大成・西武・安藤間・東急建設工事共同企業体
  中井第7号踏切付近─沼袋第3号踏切付近 工事延長902m

 沼袋駅では、軌道(線路)の下を掘削し、既存駅の地下に新駅を構築します。

photo施工ステップ 資料:西武鉄道新宿線連続立体交差事業の概要

 工事はまず、工事ヤード確保のため線路を4線から3線に変更する工事から進めました。その後、土留壁工事を開始しました。

 軌道の下に構造物を構築する際、「工事桁」で軌道を仮受けします。

photo写真:西武鉄道株式会社

 旧駅施設の支障物の撤去が完了した区間から順次、工事桁で受け替えました。軌道上でのクレーン作業が可能な軌陸クレーンを使用して、終電車から始電車まで夜間の短い時間に工事桁を架設します。沼袋駅のホームから軌道を見ると、工事桁架設工事は概ね完了していることがわかります。

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 下りホームの裏側へ移動します。住宅とホームの間の狭隘な施工ヤードで土留壁の工事が進められています。

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 狭隘な場所でも施工可能な小型の杭打機を使用し、防音設備も設置されているため掘削などによる騒音や振動の抑制に努めています。

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 沼袋駅の地下へと移動します。

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 地下へ降りて、上りホーム側から下りホーム側を見ます。ここは躯体の完成時に天井となる「上床版」になります。

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 工事桁工事、土留壁工事を終えた箇所から壁を支える支保工の設置や上床版の構築を進めています。現在はホームの中央付近で上床版の構築が完了しています。

photo沼袋駅地下の状況 資料:西武鉄道株式会社

 躯体の構築は「逆巻き工法」を採用しました。一般的な開削では、躯体の最下層となる深さまで掘削した後に下層から躯体を構築する「順巻き工法」で施工していきますが、ここでは上層を掘削して鉄筋コンクリート造の上床版を完成させてから、その下の地下を掘削するとともに躯体を構築していきます。上床板が土留壁の支保工を兼ねることで、仮設材の輻輳(ふくそう)を減らした作業空間が確保できます。

 沼袋駅を掘り下げるにあたって、軌道や上床板の荷重を下に伝搬させるため、工事桁の下に中間杭や軌道仮受杭などの長い杭を打つ必要があります。しかし、夜間作業の限られた時間の中では長い杭をそのまま打つことができないため、一次杭・二次杭に分けて施工を行います。

 外面に土留壁を確認できます。

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 支保工により土留壁が支えられています。

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 「軌道仮受杭」を見ることができます。

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 軌道仮受杭の上部には、工事桁の受け桁となる長さ約22.5m、重量約16トンある緑色の「かんざし桁」を軌道に対して垂直に架設しています。かんざし桁の上部に、工事桁が架設されています。

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 通常の開削による掘削であれば、掘削した土砂はそのまま地上へ搬出できます。しかし、ここでは掘削箇所のほぼ全面で営業線が走っているため、掘削した土砂は路下に機材を入れて、少しずつ搬出していくことになります。

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 土留壁が完成した箇所から随時、支保工や上床版を構築し、さらに地下へと掘削を進めていきます。

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 工事の支障となるため撤去した跨線橋の代替として設置された地下の連絡通路は、逆巻き工法の上床板を活用して設置されています。

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 西武新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業について、東京都建設局 道路建設部 鉄道関連事業課 連続立体交差専門課長 山口竜氏は次のように述べました。「本事業により除却する7カ所の踏切は、全てピーク時1時間あたりの遮断時間が40分以上のいわゆる「開かずの踏切」。踏切の除却により、道路ネットワークの形成を促進するとともに、交通渋滞や地域分断を解消する。沼袋駅では、施工スペースを確保するために、追越線を上下線兼用にして4線から3線へ変更するなどの工夫を凝らしながら工事を進めている。現在は、先に上床版を構築した箇所以外で、地下駅を構築するための掘削工事をしており、深さ約18mまで掘り進める。工事は住宅に近接し、営業している鉄道の直下で行うため、騒音や振動など周辺にお住まいの皆様への影響を最小限に抑えながら、安全を最優先に進めていく」

公式:新宿線中井~野方駅間連続立体交差事業 :西武鉄道Webサイト