青崩峠トンネル(仮称)は、長野県と静岡県の県境をまたぐ青崩峠道路のトンネルです。2025年3月2日に行われた工事完成式を取材しました。
青崩峠道路は東三河地域(愛知県豊橋市周辺)、遠州地域(静岡県浜松市周辺)、南信州地域(長野県飯田市周辺)の3地域「三遠南信」をつなぐ「三遠南信自動車道」の一部です。延長は5.9km。三遠南信自動車道は飯喬道路、小川路峠道路、青崩峠道路、佐久間道路・三遠道路などから成る延長約100kmの高規格道路で、長野県飯田市の中央自動車道と静岡県浜松市の新東名高速道路を結びます。
静岡県と長野県の県境にある青崩峠(あおくずれとうげ)を越える国道152号は、脆弱な地盤で斜面が崩壊し、一部で通行不能区間になっています。国道152号を改良して、青崩峠にトンネルを掘削する「青崩峠道路」が1983年に事業化されました。しかし当時の掘削技術では⼯事は不可能と判断。孤立集落の解消や国道152号や兵越林道を最大限活用することもあり、青崩峠を通らず東側の兵越峠を通るルートに変更しました。「日本のトンネル技術の敗退」と言われます。その後、⻘崩峠を含む広範囲の地質調査を実施。事業化から20年余りが過ぎた2008年、技術が進歩したことで掘削は可能だと判断し、⻘崩峠⻄側にトンネルを構築することが決まりました。
青崩峠トンネルの位置図 出所:飯田国道事務所
1983年度に事業化、2014年度に調査坑掘削開始。入念な地質調査や試験、有識者の助言等から青崩峠トンネル本坑の設計を経て2019年4月から長野県側(小嵐トンネル)本坑を掘削開始、2019年7月から静岡県側(池島トンネル)本坑を掘削開始し、2023年5月に本坑が貫通しました。
工事完成式は青崩峠トンネルの中間部で催され、長野県側、静岡県側の両方から会場へ向かうことができます。静岡県側から向かうため、新東名の浜松浜北ICから1時間30分ほど国道152号を北上して青崩峠付近に到着しました。
青崩峠トンネル、静岡県側の坑口です。
青崩峠トンネルは延長4998mになります。長野県側(小嵐トンネル、延長2854m)と静岡県側(池島トンネル、延長2144m)からそれぞれ掘削して最終的に一本のトンネルにしました。内部は高さ約6.5m、幅約11.0mあります。トンネルが完成すると、幅員9.5m、設計速度60km/h、片側1車線の対面通行になる予定です。
青崩峠付近には日本最大の活断層である中央構造線が通っていて、地層が複雑な断層破砕帯を形成しています。トンネルは中央構造線の約500m西側を並行に掘削しました。非常に脆弱な地層で、土被りは最大610mあり土圧が1mあたり最大3,000t以上と大きく、切羽の崩落やトンネルの変形で難工事になりました。
青崩峠トンネル(池島トンネル)の本坑。左側は調査坑とつながる
トンネルの施工は、掘削、鋼製支保工の設置、コンクリートの吹付け、ロックボルトの打設を繰り返し、1m毎に発破をかけて掘削しました。土圧の大きい箇所では高規格鋼製支保工を使用し、標準的な吹付けコンクリートの2倍の強度をもつ高強度吹付けコンクリートを採用。コンクリート吹付け後には、通常の約1.6倍の耐力を持った高耐力ロックボルトが用いられました。それでも深部に進むにつれ対応できなくなったため、国内初となる3倍強度の超高強度吹付けコンクリートを導入、支保工を二重にして施工し、掘削を完了しました。
30mほど離れた奥に調査坑が通る
工事完成式の会場に到着しました。
長野県側の坑口から2815mの位置で、土被りは600mあります。トンネル1mの上に、体重5tのゾウが600頭以上乗る重さがかかるイメージです。
会場の前には工事の詳細を伝えるパネルや映像を展示しています。青崩峠付近の崖に露出する、非常に脆くて崩れやすい断層破砕帯は変質により青味を帯びていることから、「青崩峠」と呼ばれるようになったとされます。
掘削で出た様々な岩石に触れることができます。マイロナイトとは、高温かつ高圧の地下深くで固結した花こう岩が、横ずれの変形を受けた岩石です。
完成式記念イベントとして、県境での綱引きが催されました。毎年秋に長野の信州軍と静岡の遠州軍が三本勝負で県境をかけた「峠の国盗り綱引き合戦」が兵越峠で行われていて、勝った方には国境を1m相手側へ移動できます。今回の綱引きでは二本勝負かつ双方一勝一敗となり、国境の位置は変わりませんでした。
議員や関係者、地域住民ら120人が出席して、工事完成式が始まりました。式次第は開式、式辞、事業者挨拶、来賓祝辞、来賓紹介、祝電披露、くす玉開披、謝辞、閉式になります。
国土交通省中部地方整備局の佐藤寿延局長は「トンネルの完成で支援いただいた多くの方に感謝する。開通までまだ工事が必要ではあるが、1日も早い完成を目指して取り組んでいく」と挨拶しました。
くす玉が開披され、青崩峠トンネル(仮称)の工事完成式は終了となりました。
今後はトンネルの舗装や電気などの工事を進め、周辺道路の整備に合わせて数年後に開通する予定です。開通すると同区間の所要時間は現在の35分から7分に短縮します。広域交流の促進、三遠南信地域の連携強化、災害に強い地域間ネットワークの構築、救急医療サービスの支援、地域活性化の支援が期待されています。
■工事の概要
事業者:飯田国道事務所
・小嵐トンネル
工事名:平成30年度三遠南信小嵐トンネル本坑工事
施工場所:長野県飯田市南信濃八重河内
工期:2018年8月9日〜2024年12月6日
延長:3140m(うちトンネル延長2854m)
NATM(発破)
掘削土264,000m³、コンクリート45,500m³
施工者:五洋建設
・池島トンネル
工事名:平成30年度三遠南信池島トンネル本坑工事
施工場所:静岡県浜松市天竜区水窪町奥領家
工期:2018年8月10日〜2025年3月24日(延期予定)
延長:2790m(うちトンネル延長2144m)
NATM(発破)
掘削土239,500m³、コンクリート38,420m³
施工者:安藤・間