環状七号線地下広域調節池 石神井川区間(2025年5月)

 環状七号線地下広域調節池

 東京都が整備を進めている「環状七号線地下広域調節池」は、環状七号線および目白通りの地下に建設中の大規模な洪水対策施設です。2025年5月、そのうち「石神井川区間」の工事現場を取材しました。

 環状七号線の地下には「神田川・環状七号線地下調節池」、目白通りの地下には「白子川地下調節池」が既に稼働しています。これらを「石神井川区間」で接続することで、全長13.1km、貯留容量143万㎥(小学校のプール約4,800杯分)という国内最大規模の地下調節池が完成する予定です。

photo石神井川区間の位置図 出所:東京都第三建設事務所

 環状七号線地下広域調節池が完成すれば、1時間当たり最大75mmの降雨による洪水を貯留可能になります。また、白子川・石神井川・妙正寺川・善福寺川・神田川という5つの河川を連結することで流域間で貯留水を融通できるようになり、1時間当たり100mmの集中豪雨にも対応できる高い治水効果が期待されています。

 トンネルは、シールド機で地面の中を掘り進めながら構築します。粘り気のある泥水を送泥管でシールド機へ送り、掘削した土砂が混じった泥水を排泥管で地上に運び出して土と水に分けて処理する、「泥水式シールド工法」を採用しています。

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 シールド機は直径13.45メートル、長さ12.91メートル、重さ約2,500トン。先端には「カッターヘッド」と呼ばれる回転する円盤があり、土砂を削り取る刃「ビット」が付いています。掘削と同時に「セグメント」と呼ばれる円弧状のブロックを組み合わせて、内径12.5mのトンネル壁を構築します。シールド機は組み立てたセグメントをシールドジャッキで押して、進行方向へ掘削を進めています。
 
 現在は、中野区野方五丁目にあるシールド機の発進たて坑「妙正寺川たて坑」から、練馬区高松三丁目の到達たて坑「石神井川たて坑」までの約5.4kmを、土かぶり32〜40mの深さで掘削しています。また、完成後のトンネルの維持・管理を行うため、練馬区豊玉中3丁目には中間たて坑を構築しました。この中間たて坑とシールドトンネルをつなぐ連結管は、開放型シールド工法で整備します。

photoシールド掘削状況進捗図(2025年5月22日現在) 資料:東京都第三建設事務所

 妙正寺川たて坑は施工ヤードとして整備していて、妙正寺川の取水施設も併設しています。

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 トンネル構築に必要な資材を地下に降ろす巨大なリフトを設置しています。

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 地上付近からたて坑下部を見下ろします。中央には巨大なリフトを設置し、壁面には作業者が移動するためのエレベータも備わっています。

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 エレベーターと階段で地下約30mの、たて坑下部へ移動しました。壁面にシールドトンネルがあります。

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 シールド機が掘り進めたトンネルを歩いて進みます。

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 2020年2月のシールドマシン発進式典で関係者により寄せ書きされたセグメントが組み込まれました。

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 資材を運ぶ車両が通行する線路には、進行方向が光で示されています。

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 発進たて坑から30m歩きました。30という数字にまつわる、ギネス世界記録に認定された世界で一番大きい30mの椅子の写真を掲示しています。

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 地上ではどの位置にあたるかが示されています。施工ヤードから環状七号線の直下へ移動しました。

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 資材を運ぶ自走台車が停車しています。

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 ストックヤード区間には、トンネル壁を構築するためのセグメントが積まれています。9枚のセグメントで1リング(1R)を構成します。地上の施工ヤードを有効活用するため、セグメントは地下のストックヤード区間に保管しています。

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 セグメントのストックヤード区間の端まで来ました。

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 掘削完了区間が1km超と長いため、作業員はトンネル内を自転車で移動します。

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 トンネルは環状七号線に沿って、一直線に続いています。

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 シールド機に泥水を送る送泥管と、シールド機から地上へ送られる泥水を送る排泥管が通っています。

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  調節池が完成した際にはメンテナンス車両が通行するため、通常は床にコンクリートを打設して整備しますが、ここでは品質と施工効率を重視して、事前に製作したものを現地で設置する「プレキャストインバート」を使用しています。

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 発進たて坑から580リング目で、中野区から練馬区に入ります。

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 シールド機の後方には、掘削に必要な泥水ポンプや裏込め設備などを搭載した後続台車10台が連なっていて、そのヤグラのような構造物が見えてきました。

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 台車の高さを利用して、セグメントとセグメントの隙間を裏込め注入材で埋めます。

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 さらに進むと、シールド機の後部が現れました。シールド機は2025年5月現在、シールド機は発進たて坑から約1.4km進んだ中間たて坑の真横下部で停止していて、ビットの摩耗による掘削能力の低下を受け、ビットの交換作業を進めています。

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 シールド機内側の下部には、セグメントを設置するエレクターが取り付けられています。

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 シールド機は発進時にたて坑の鉄筋コンクリート壁を切削する必要があったため、930個の丸型ビットがカッターヘッドに密に配置されていました。そのまま土砂を掘削したところ、過密な配置が原因で土砂の付着が進み、ビットの摩耗も加速。掘削能力が低下しました。

photo交換前と交換後のビット配置の違い 出所:東京都第三建設事務所

 このままでは全長5.4kmの掘削完了が難しいため、ビットを655個に減らし、間隔を広げて角型ビットへの交換を行っています。また、土砂の排出効率を高めるため、カッターヘッドの開口率を拡大する改良も加えられました。

 作業場所は地下約50mに位置し、土の崩壊や地下水の流入が懸念されるため、地盤と地下水を凍結して安定させる「凍結工法」を採用。中間たて坑からシールド機前方に向けて斜めに長さ60mの凍結管を削孔し、冷媒を循環させて幅20m・奥行き11m・高さ23mの凍結地盤を造成しました。その内部を掘削し、幅16m・奥行き1m・高さ2.6mの作業空間を確保して、ビットの交換作業を進めています。
 必要な箇所以外には防熱材付き凍結管を使用して、凍結範囲を限定的に制御しています。

photoビット交換の進行手順 出所:東京都第三建設事務所

 取り外した古いビットが積まれています。外周部のビットは掘削面積が大きく、摩耗も激しい状態です。

photo摩耗したビット

 これから取り付ける角型ビットです。土砂の掘削に特化した形状となっています。

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 さらに奥へ進むと、掘削時にセグメントを押し出す「シールドジャッキ」が見えます。

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 シールド機内側の先端部分に到着しました。

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 右手側には、凍結地盤へとつながるマンホールがあり、この先でビット交換作業が行われています。

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 ビット交換が完了し次第、掘削を再開する予定です。シールド工事全体の完了は2027年度末を見込みます。なお、環状七号線地下広域調節池では不定期に現場見学会を実施しています。興味があれば、ぜひ現場に足を運んでみてください。

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 東京都第三建設事務所⼯事第⼆課の⽴澤延泰統括課⻑代理は「本工事は都市部での大断面・大深度・長距離という条件が難しい工事。そのため、発注者・受注者・各専門工事業者が一体となった協力体制のもと、より良い品質の確保および、安全かつ早期の工事完成を目指し、神田川流域・石神井川流域・白子川流域の治水効果の早期発現に努めていく」と述べました。

 環状七号線地下広域調節池の整備について、これまでラジエイトでは以下を紹介しています。

■工事の概要
 工事名:環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事
 施工場所:中野区野方5丁目地内~練馬区高松3丁目地内
 工期:2017年3月9日~2027年度末頃
 発注者:東京都(第三建設事務所)
 受注者:大成建設・鹿島・大林組・京急建設共同企業体(JV)

公式:環状七号線地下広域調節池(石神井川区間)工事