墨田区と東武鉄道は、東武鉄道伊勢崎線・とうきょうスカイツリー駅付近で、駅の移設および線路の高架化と踏切の除去を目的とした「東武鉄道伊勢崎線(とうきょうスカイツリー駅付近)連続立体交差事業」を進めています。2025年6月7日に開催された「上下線高架化記念式典」と「現場見学会」を取材しました。
この事業は、とうきょうスカイツリー駅周辺の約0.9km区間にわたって鉄道を高架化するものです。墨田区が施行者となり、鉄道事業者である東武鉄道株式会社と連携して進めている都市計画事業です。
事業の位置図 出典:事業パンフレット(墨田区・東武鉄道株式会社)
上下線の高架化と、桜橋通りにある伊勢崎線第2号踏切の除却は、2025年3月に完了しました。駅のホームは利便性向上等のため約150m東側に移設し、上り線ホームは新駅舎で供用しています。
高架化区間の詳細図 出典:事業パンフレット(墨田区・東武鉄道株式会社)
これにより道路と鉄道の安全性が向上し、踏切による交通渋滞も解消。さらに、鉄道と交差する都市計画道路の整備により南北に分断されていた市街地の往来が容易となり、地域の一体化が進められます。
●上下線高架化記念式典
午前10時より、すみだリバーサイドホールイベントホールにて、関係者による記念式典が行われました。式次第は、本所高等学校筝曲部による歓迎演奏から始まり、主催者挨拶、来賓祝辞、来賓紹介、記録映像上映、くす玉開花、祝賀演奏、閉式という流れで進行しました。
主催者を代表し、山本亨墨田区長は次のように挨拶しました。
「上下線の高架化が完了し、街の発展に向けて大きな節目を迎えることができた。踏切による渋滞が解消されたとの声が多く寄せられており、非常に嬉しく思う。今後も連続立体交差事業の推進とともに、高架下空間の活用などを通じて、魅力ある街づくりに取り組んでいく」
東武鉄道株式会社の都筑豊取締役社長も次のように述べました。
「このたび3月に下り線を高架化し、踏切を除却することができた。今後は留置線の高架化工事などを進め、事業の完了を目指す。東京スカイツリータウンを中心に、地域の一員として発展に貢献していきたい」
最後に、本所高校ブラスバンド部による祝賀演奏とくす玉の開花で式典は締めくくられました。
●上下線高架化記念 現場見学会
正午からは、事前に申し込んだ墨田区内在住の小学生とその保護者40組と、「すみだ子どもPR大使」として活動する小学4~6年生とその保護者5組、合計45組を対象にした現場見学会が実施されました。
参加者はまず、すみだリバーサイドホール1階ギャラリーで、説明パネルやNゲージ鉄道模型を見学しながら連続立体交差事業への理解を深めました。
Nゲージ模型は、とうきょうスカイツリー駅周辺の過去と未来の街並みを2面で表現しています。
その後、参加者は浅草駅へ移動。臨時列車に乗り込み、新しくなったとうきょうスカイツリー駅や高架化した上下線・留置線を車内から見学しました。
参加者が乗車した臨時列車「スカイツリートレイン」
列車は下り線を走行し、新しくなった とうきょうスカイツリー駅を通過します。
とうきょうスカイツリー駅の新駅舎ホーム。下りは施工中、上りは供用中
留置線へ進入します。一時的に車両を停めておくための区間になります。
左側2線が留置線、右側2線が本線
通常運行では見られない景色に、参加者からは歓声があがりました。
列車は一時停車。現在は2線の留置線ですが、完成時には5線になる予定です。地上部は伊勢崎線第2号踏切があった場所にあたります。
2025年3月1日に下り線の高架切替工事を行い、翌2日から本事業区間の高架下り線を使用開始。それに伴い、伊勢崎線第2号踏切を除却しました。
伊勢崎線第2号踏切跡地。奥が本線、手前が留置線 提供:墨田区
列車は折り返して上り線を走行し、新駅舎ホームに到着。高架下の施設を見学します。新駅舎は言問通り側(浅草方)と押上駅交通広場側(曳舟方)の2カ所に設け、各施設(エレベーター、エスカレーター、トイレ)も両方に設置します。トイレのデザインについて、アンケートも実施されました。
とうきょうスカイツリー駅の高架下中央付近。ホーム両端に駅舎を建設する
新駅舎の下り線ホームへ移動。東京スカイツリーに調和する色調や、上屋を支える枝木のような鉄骨デザインが特徴です。
とうきょうスカイツリー駅 下り線ホーム
続いて、東武鉄道が用意した体験コーナーがある駐輪場屋上へ移動します。
制服体験やスマートボール、Nゲージ操作などを楽しみました。
非常ボタンで走行中のNゲージ車両を緊急停止
最後に、曳舟方駅舎側の高架下で土木・軌道工事について説明を受けます。本事業における一般的な高架橋はRCラーメン構造で、杭の長さは約40m。東京メトロ半蔵門線に続く地下躯体直上部では、RC構造より軽量な鋼構造を採用しています。
地下躯体への影響を軽減させるため、鋼構造の高架橋を採用
地上部では、不要になったレールの撤去作業が進んでいます。線路の新設や修理する際に使用する軌陸バックホウによる運転のデモンストレーションが行われました。
浅草方、先には駅新駅舎。線路上には軌陸バックホウ
曳舟方
事業は、2016年3月に都市計画決定、2017年6月に事業認可取得。2018年に鉄道高架化工事着手し、2022年11月に上り線を、2025年3月には下り線と留置線の一部を高架化しました。2025年度は、残りの留置線高架化工事を進めます。
施工順序図 出典:事業パンフレット(墨田区・東武鉄道株式会社)
駅部分は、従来の1面2線から2面3線へと拡張され、留置線は従来の10線から5線体制へと再整備します。現在、留置線は2線が完成しており、今後は残りの3線分の高架橋を構築していく予定です。
高架化事業について、墨田区立体化推進課の松岡宏輔課長は次のように語りました。
「東京スカイツリーの誘致を契機に地元の期待と機運が高まり、関係機関等の協力を得ながら事業を推進することができた。今後は留置線の高架橋築造工事等を進めるとともに、駅を挟んで南北に分断されていたまちをつないで、地域の一体化に注力していきたい」
また、工事の進捗と課題について、東武鉄道株式会社改良工事部の二木邦明課長は次のように述べました。
「工事区間には留置線や駅ホームが含まれており、鉄道機能を維持しながらの施工には多くの困難があった。地域の皆さまのご理解とご協力のおかげで、ここまで事業を進めることができた。今後も安全性を確保しつつ、地域の魅力向上につながるような工事を進めていきたい」
■事業の概要
路線名:都市高速鉄道 東武鉄道伊勢崎線
区間:とうきょうスカイツリー駅付近(墨田区押上二丁目─墨田区向島一丁目)
延長:約0.9km
工期:2017年度〜2028年度(予定)
構造形式:高架式(嵩上式 かさあげしき)
事業費:約492億円