西武鉄道新宿線は、西武新宿駅と本川越駅を結ぶ全長47.5kmの路線です。西武鉄道新宿線の中井駅付近から野方駅付近までの約2.4kmについて鉄道を地下化し、道路と鉄道を連続的に立体交差化する「西武鉄道新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業」が実施されています。2022年1月21日、地下化工事が進む新井薬師前駅を取材しました。
連続立体交差事業は東京都が事業主体となり、地元区市・鉄道事業者が相互に連携し実施する事業です。本事業では東京都と西武鉄道で施行協定を締結し、同協定に基づき西武鉄道が鉄道工事を行っています。全体事業費は約737億円で、国、東京都、中野区及び西武鉄道が費用を負担しています。連続立体交差事業は鉄道事業者主体による事業と思われがちですが、踏切除却による交通渋滞の解消などを目的とした「道路整備」の一環として施行する都市計画事業として、地方公共団体※が事業主体となって実施します。2027年(令和9年)3月末までの完成を目指します。
※都道府県または政令指定都市・特別区・人口20万人以上の都市
本事業により7ヵ所の踏切を除却することで交通渋滞が解消します。また、本事業に伴い、新井薬師前駅と沼袋駅が地下化されます。
工事区間の詳細地図 資料:東京都
中井駅─野方駅間における連続立体交差事業の主な事業効果には、次のようなものがあります。
・踏切による交通渋滞や踏切事故の解消
・鉄道による地域分断の解消
・鉄道の安全性の向上、踏切経費の節減
・駅周辺の整備、交通アクセスの改善
施工方法は大きく2つに分けられます。地上から掘削工事を行ってトンネルを作る開削工法と、シールド機を使ってトンネルを作るシールド工法です。開削工法は、地下から地表への移行区間である取付部および駅部にて行います。シールド工法は、駅間などの一般部にて行います。なお、シールド機は開削区間である駅部では掘削を行わず、そのまま通過します。
工事は5工区に分けられ、新井薬師前駅は1工区になります。
工事区間の詳細地図 資料:西武鉄道
工区名、企業体名、区間・延長は以下の通りです。
1工区(西武新宿方取付部、新井薬師前駅部)
鹿島・鉄建・戸田・五洋建設工事共同企業体
妙正寺川─新井薬師前駅 工事延長556m
2工区(沼袋駅部)
大林・前田・フジタ・飛島建設工事共同企業体
工事延長166m
3工区(沼袋駅部)
清水・熊谷・鴻池・竹中土木建設工事共同企業体
工事延長243m
4工区(所沢方取付部)
西武・大成・安藤間・大豊建設工事共同企業体
沼袋第3号踏切付近─野方駅 工事延長487m
5工区(シールド区間)
大成・西武・安藤間・東急建設工事共同企業体
中井第7号踏切付近─沼袋第3号踏切付近 工事延長902m
新井薬師前第1号踏切では、バスの路線でもある区道主要幹線道路5号線と鉄道が交差し、慢性的な渋滞が発生しています。
西武鉄道新宿線の中井駅─野方駅間において、都市計画道路は補助第220号線、補助第26号線(中野通り)、中野区画街路第4号線の3か所で交差しています。
新井薬師前駅の北側には、作業構台で覆われた施工ヤードが確保されています。
事業が完成すると、現在よりも北側の地下に駅が移動します。現在の駅舎と線路は撤去され、約3,700m²の交通広場を整備する予定です。
現在、施工ヤードの下では以下の図の工程5となる、地下躯体の構築に向けた掘削工事が進んでいます。
施工ステップ 資料:西武鉄道
2019年夏頃に線路の下を掘削するため現在の線路を受ける桁を架設する工事を行い、2020年秋頃に土留壁工事を進めました。
施工ヤードから地下へと移動します。左右に土留壁、中央に中間杭が打設され、上部には支保工を確認できます。
現在は土留壁の設置を終え、1次掘削を経て2次掘削へと進んで深さは5mほど掘削しています。掘削が完了すると、深さ約16m、幅約16m〜17mの空間に新しい新井薬師前駅が構築されます。地下1階は改札口、地下2階はホームと2層構造になり、ホームの延長は170m、幅員約7m〜8mとなる予定です。線形改良も同時に行われ、現況よりもカーブが緩やかなR500程度のホームになります。
駅の中井側では、線路の直下も掘削されていることがわかります。
垂直に、仮ホーム桁受杭を見ることができます。また、線路と直角に交差するように、ねずみ色の太い「かんざし桁」を設置しています。かんざし桁は荷重を支えるために用いる仮設の桁です。
支保工を設置しながら、掘削が続きます。
掘削した後、コンクリートを打設して地下駅を構築し、支保工および作業構台などを撤去します。線路の切替えを行ったあと、埋戻しを行い、地上に残った現在の線路設備などを撤去して完成となります。
西武新宿線 中井駅─野方駅間 連続立体交差事業について、東京都建設局 道路建設部 鉄道関連事業課長 山本諭氏は次のように述べました。「事業区間にある7か所の踏切は、全てピーク時の遮断時間が40分以上のいわゆる「開かずの踏切」。この事業によって踏切遮断による交通渋滞が解消されることはもとより、鉄道により分断されていた市街地の一体化を図ることができる。安全で魅力的な街の実現に向け、今後とも沿線にお住まいの皆様のご理解・ご協力を頂きつつ、中野区・西武鉄道と連携して事業を推進していく」