中部横断道(E52中部横断自動車道)は、静岡県静岡市を起点に山梨県甲斐市を経由して、長野県小諸市に至る延長約132kmの高速自動車国道です。
2018年3月25日、中部横断道の一部となる樽峠トンネルの貫通を記念して「中部横断道 樽峠トンネル 貫通記念イベント」が行われました。
(文中でのトンネルおよび橋梁の名称はすべて仮称です)
中部横断道が全線開通すると、東名高速(E1東名高速道路)と新東名(E1A新東名高速道路)、中央道(E20中央自動車道)が結ばれ、産業や観光の活性化など様々な効果が期待されています。
新清水JCTから中央道の双葉JCTまでの開通状況は以下の通りです。
・新清水JCT─富沢IC(約20.7km):
2018年度開通予定 NEXCO中日本施工区間
・富沢IC─南部IC(約6.7km):
2018年度開通予定 国土交通省施工区間
・南部IC─下部温泉早川IC(約13.2km):
2019年度開通予定 国土交通省施工区間
・下部温泉早川IC─中富IC─六郷IC(約8.4km):
2018年度開通予定 国土交通省施工区間
・六郷IC─増穂IC(約9.3km):
開通済み(2017年3月) NEXCO中日本施工区間
・増穂IC─双葉JCT(約16km):
開通済み
イベントの会場となる樽峠トンネル(たるとうげトンネル)は、静岡県静岡市清水区中河内から山梨県南巨摩郡南部町福士までの区間となり、中間には県境があります。延長は約4999mで、日本の長大道路トンネルとしては19位になります。
樽峠トンネルを含む新清水JCT─富沢IC間は非常に急峻(きゅうしゅん)な地形で、道路の土工部は約13%、橋梁部は約24%、トンネル部が約63%にもなります。この区間には8本のトンネルを建設しています。
事前に応募することで、貫通したばかりの樽峠トンネルを歩くことができます。応募は先着順で、人気のためにほぼ即日で受付が終了しました。時間を区切って、南の静岡側から約300名が3便のバス、北の山梨側からも約300名が4便のバスに乗り、それぞれ樽峠トンネルへ向かいます。
山梨側から、樽峠トンネルへ入ります。本線となるトンネルの坑口の横に、事故などで避難する際に使う避難坑の坑口が見えます。
静岡側の参加者は県境の手前150m、山梨側の参加者は県境の手前350mでバスを降ります。それぞれトンネルの中を歩いて、トンネルのほぼ中央にある県境を目指します。
ヘルメットを着用し、静岡側のバス乗降地点から県境を経て、山梨側のバス乗降地点までを歩きます。
本線のトンネルの横から、避難坑へ続く連絡坑が延びています。避難坑は2017年6月23日、本線のトンネルは2017年10月27日にそれぞれ貫通しました。
連絡坑を抜けて、避難坑へ移動します。
避難坑が本線のトンネルと並行して坑口まで続いています。避難坑は救急車などの救急車両が通行できる大きさが確保されています。
再び本線のトンネルに戻り、山梨側の坑口方面へ向かいます。正面に見えるのは、セントルと呼ぶ移動式の型枠です。
完成時のトンネル内の高さは7.1m、道路の幅員は9.5mです。道路は片側1車線の対面通行となります。
トンネルは、NATM(ナトム:New Austrian Tunnelling Method)で建設しました。掘削した地山にコンクリートを吹き付けて素早く固めるとともに、ロックボルトを岩盤の奥深くまで打ち込むことで、地山自体の保持力を利用してトンネルの安定を保つ工法です。
NATM工法によるトンネルの掘削の流れは以下の通りです。
1.削孔(爆薬を詰める穴を開ける)
2.装薬(開けた穴に爆薬などを詰める)
3.爆破
4.ずり出し
(ずり:トンネル掘削時に掘り出される土石や岩石のくず)
5.鋼アーチ支保工建て込み
6.コンクリート吹き付け
7.ロックボルト打設
8.インバートのコンクリート打設
(インバート:トンネル底面の逆アーチに仕上げられた部分)
9.覆工コンクリート打設
トンネルの工事で使用された様々な車両が展示され、一部は乗ることができます。
パネル展示や模擬実験も用意されています。
NATMにおけるロックボルトの役割を示す模型実験を見てみました。
白色の紙をトンネルの断面、金属ナットを地山の粒子、赤色のビニールテープをロックボルトに見立てた実験です。ロックボルト(ビニールテープ)があることで、個々の粒子(ナット)が動かなくなり、トンネルの外周部がブロック化した状態になります。各ブロックがトンネル断面をアーチ状に覆うことで、トンネルは崩れなくなるのです。これは、グランドアーチ効果と呼ばれます。コンクリートの壁(覆工コンクリート)で支えているわけではありません。
静岡県と山梨県の県境に着きました。標高は約323mです。
静岡側の坑口から県境までの2627mはNEXCO中日本の清水工事事務所が担当し、山梨側の坑口から県境までの2372mはNEXCO中日本の南アルプス工事事務所が担当しています。
県境では、NEXCO中日本のマスコットキャラクター「みちまるくん」と一緒に記念写真を撮ることができます。
トンネルの掘削は2011年6月に山梨側から始まり、2年9カ月後の2014年2月に県境地点まで到達しました。一方、静岡側から掘削を始めたのは2013年8月ですが、掘削した地山がトンネル内にはらみ出してくる「押し出し性地山」の区間が存在したことで、工事は難航しました。
「静岡側の坑口の2km付近から貫通地点まで、押し出し性地山が出現した。支保パターンをランクアップするとともに、注入式長尺鋼管先受け工法(AGF工法)と呼ぶ補助工法を併用しながら掘削した」と、中日本高速南アルプス工事事務所の竹内彰隆工務課長は話しました。
さらに、山梨側から静岡側に向けて掘削する「迎え掘り」も実施しました。その結果、予定よりも1カ月半早い2017年10月に貫通できたのです。
樽峠トンネルでは、掘削に伴う崩落や断面変形、自然由来の重金属を含む掘削土の処理など、様々な課題が発生しました。同トンネルを含む新清水JCTから増穂ICまでの区間は地盤が軟弱で、30あるトンネルのうち24のトンネルで崩落や断面変形、湧水、重金属などの対応に迫られました。
落書きコーナーが用意されています。
トンネルの壁面には、樽峠トンネルを含めた中部横断道への思いが書き込まれています。
一部ではトンネルの設備が進んでいて、排水路などの断面を見ることができました。
記念品として、トンネル貫通石や花の苗が参加者に配られました。
休憩スペースが用意してあり、数多くのパネルが展示されています。
施工中の様子などを映像で見ることもできます。
山梨側のバス乗降地点に着きました。
「中部横断道 樽峠トンネル(仮称)貫通記念イベント」はここまでとなります。
山梨側の坑口から約400mの地点に、横坑があります。最初に横坑を掘削し、その横坑を利用してトンネル本線の掘削が進められました。
樽峠トンネルから山梨県の富沢IC方面へは、約4%の下り勾配が連続します。
樽峠トンネルを抜けると、延長約323mの長瀞川橋、延長509mの石合トンネルと続きます。
橋の上から見ると、急峻な地形であることがわかります。
中部横断道の開通によって、静岡・山梨県間の移動時間が1時間ほど短縮します。代替路の確保や医療活動の支援といった効果も期待されています。
工事名:中部横断自動車道 樽峠トンネル北工事、樽峠トンネル南工事ほか
工事費:総額約250億円
発注者:中日本高速道路
受注者:大林組(山梨側)、清水建設(静岡側)ほか
公式:NEXCO 中日本