上信越自動車道の北野牧トンネル上部に位置する、高さ70mにおよぶ岩塊を除去する工事が進んでいます。2024年6月16日、NEXCO東日本 長野工事事務所により、施工場所である北野牧工事現場が一般に公開されました。
一般公開には応募した1,866組の中から抽選で選ばれた36組(72人)が参加。参加者はまず、北野牧工事の工事現場内にある上信越道・長野道高速リニューアルテクノセンターで工事の概要を聞きます。
松井田妙義IC─碓氷軽井沢間にある北野牧トンネルの上部には高さ約70m、幅約90mの巨大な岩塊があり、崩落の危険を事前に回避するため、NEXCO東日本では岩塊の除去工事を進めています。
工事区間の周辺地図 資料:NEXCO東日本
岩塊除去工事に取りかかるきっかけになったのは、1996年2月に北海道余市町と古平町を結ぶ豊浜トンネル坑口付近で発生した岩盤崩落事故です。トンネル内を走行していた路線バスと乗用車に直撃。4回の発破作業で1週間後に崩れた岩盤を取り除くことができたものの、2台に乗っていた20人の命が奪われました。この事故を契機として、全国で事故発生箇所と類似した坑口斜面の調査を実施。北野牧トンネルは直ちに岩盤が崩落する可能性は低いものの、安全を確保するため、崖面の岩盤を除去する予防保全工事を行うことにしました。
約2年の施工計画の後、桟橋や構台といった掘削の準備工事を2017年2月に着手。掘削の際に重機や岩石を移動する桟橋などの「仮設備工」と、高速道路への落石を防ぐ「落石対策工」を2023年9月に完了させました。2023年2月から「掘削工(本体工)」を開始し、掘削の完了は2026年頃、仮設備撤去や原形復旧を2029年頃に終える予定です。
工事区間の詳細図 資料:NEXCO東日本
岩塊の東京側に、掘削機械の搬入出や掘削した岩石を搬出するための仮桟橋A、仮桟橋B、仮桟橋C、工事車両用大型昇降装置のインクラインを設置。長野側には足場などを運ぶ仮桟橋Dと人員を運搬する大型モノレールを備えました。これらの設備により、高速道路を使用せず掘削を進めることができます。
テクノセンターには見学や視察で利用する資料を展示しています。
立体的な模型もあり、工事の全体をつかみやすくなっています。
参加者はバスに乗車して仮桟橋を通り、岩塊の上部を目指します。
バスを降りて、インクラインで掘削工の現場へ向かいます。
インクラインは、斜面に沿った巨大なエレベーターで、大型ダンプに岩石を載せたまま移動することができます。インクラインは25度の傾斜を、152m移動します。真横には北野牧トンネルの坑口があります。
上昇するインクラインから見下ろすと、上信越自動車道の本線を確認できます。
約7分ほど移動し、岩塊の上部構台に到着しました。
インクラインは20tダンプトラック2台を載せて運ぶことが可能です。
岩塊の最上部に移動します。
岩塊は頂上から掘削し、岩石にして運び出します。作業はまず、クローラードリルを使い80cm間隔で深さ2.5mの穴をあけ、ビッガーと呼ぶ重機の巨大な刃を穴に差し込みます。2枚の刃に挟まれた中央の刃を押し進めることで、2枚の刃が横方向に引っ張る力をかけ岩塊を割ります。深さを変えて3回差し込み、岩盤を少しずつ割っていきます。ビッガーで割った岩はブレーカーで砕いて、40cm四方ほどの岩石にします。
この日は休工ということもあり、使用している重機を見やすく展示しています。
地面に穴を掘削するクローラードリル
巨大な刃を穴に差し込み亀裂を入れて岩塊を割るビッガー
岩塊に打撃を与えて崩すブレーカー
ビッガーで岩塊を割るデモストレーションが行われました。クローラードリルで穴へ、ビッガーの刃を差し込みます。
岩塊は、直径5cmの円柱を縦に10tの力をかけるとようやく割れる硬さで、コンクリートの約3倍の強度があります。岩の割れる際には「ドン」という小さく鈍い音が聞こえました。
ビッガーが岩塊を割る動画です。
岩塊の縁は岩石落下の可能性が高いため、より慎重に掘削します。
岩塊の壁面に設置された足場の上部を通ります。足場1段あたりの高さは約1.8mです。
現場では複数の落石対策を採用しています。落石を防止し地山の変形を抑えるため、「ロックボルト」と呼ぶ鉄筋を約1200本打設しました。また、高強度金網の設置により安定性を確保しています。足場の床も、落石防止の役割を担ってます。
足場から上信越自動車道を見下ろします。
最大13人の作業員が昇降できるエレベーターを設置しています。参加者はエレベーターで降ります。
組まれた足場の間を進みます。
足場から下を見ると、高さを実感することができます。
階段を降りて、足場の下部を目指します。
仮設の屋根となる「ロックシェッド」を高速道路本線の上部に設置しています。直径約20cmの落石の衝撃に耐えることができます。
ロックシェッドの上部に移動しました。足場で囲まれた岩塊が目をひきます。岩塊の掘削に合わせて足場を上部から撤去していきます。2023年2月から除去している岩塊の運搬量は一日あたりの約60m³、約1年で高さ約23m分を除去しました。
高速道路本線の上り線と下り線の間には、撤去した足場を搬出する230t吊り大型クレーン車が設置されています。この日は参加者がクレーン車に体験乗車できました。
緩衝材でつくられたロックシェッドのサンプルを展示しています。野生の猿により、一部が削られています。
上信越自動車道(上り線)真横の構台へ移動しました。参加者はここで記念撮影します。
岩塊の下部を上信越自動車道(上り線)が通ります。
高速道路本線の下へ移動します。ロックシェッドや構台は、高速道路の構造物に負担をかけることがないよう地上から支保で支えています。工事完了時にはすべて撤去します。
人員を運搬する積載荷重3t級の大型モノレールが待機しています。総延長は410mあります。
参加者は大型モノレールに乗車し、県道に接続するモノレール基地へ向かいます。
急勾配を進みます。
工事が進む中で落石発生を確認したため、落石防止用ネットが設置されました。
落石防止用ネットの上部には、岩壁がそびえ立っています。
モノレール基地に到着しました。バスに乗車し、テクノセンターへ戻ります。
北野牧工事で取れた安山岩が「不落石」と名付けられ、受験のお守りとして参加者は自由に持ち帰ることができました。
掘削する岩塊の総量は合計で約9万5千m³になるため、長野工事事務所では多方面の活用を広く求めています。
NEXCO東日本 長野工事事務所の小暮英雄所長は「地震や劣化による落石のリスクを取り除くため、工事を着実に進めている。安全に、そして安心して利用できる高速道路を目指していく」と話しました。
■工事の概要
工事名:上信越自動車道北野牧工事
施工場所:群馬県安中市松井田町
工期:2017年2月~2029年4月
工事費:約271億円
発注者:東日本高速道路会社
受注者:大林組