環八 井荻トンネル見学ツアー

一般道路

 環八(環状八号線)の井荻トンネルは、環状八号線の慢性的な渋滞を緩和するために整備されたトンネルです。2024年9月27日に行われた「環八 井荻トンネル見学ツアー」を取材しました。

 井荻地域を通る環状八号線は早稲田通り、新青梅街道、千川通りと平面交差し、朝夕の通勤ラッシュ時に60分のうち46分、平均でも32分遮断する西武新宿線の踏切があり、都内で最も渋滞の激しい地点でした。東京都は慢性的渋滞を減らすため、環状八号線の地下化と西武新宿線の踏切除却に着手。1997年4月に片側2車線の井荻トンネルが開通し、トンネルを通過しない利用者のために西武新宿線の上を跨ぐ片側1車線の車道と線路の下部に横断地下歩道を整備、交差する道路3路線および鉄道をトンネルで一気に通過することが可能になりました。2006年5月に開通した練馬トンネルが井荻トンネルと接続したことで、現在は円滑な道路交通が確保されています。

photoトンネル区間の地図 資料:東京都道路整備保全公社

 井荻トンネルの延長は1,263m(練馬トンネルとの接続後は1,467.9m)、練馬トンネルと合わせると延長約3,100mで、都心の一般道におけるトンネルでは最長になっています。一日の交通量は5万台を超えるため、都内では最大のAA級トンネルになっています。都道以外では首都高速道路の山手トンネルや港湾道路の臨海トンネルが同じ等級区分となります。AA級トンネルでは火災や交通事故などから利用者を守るため、非常電話や泡消火栓など多くの非常用設備が設置されています。

photoトンネルの諸元 資料:東京都道路整備保全公社

 トンネルの管理は開通当初から(公財)東京都道路整備保全公社が東京都より受託し、井荻・練馬トンネルとして一体的に行っています。公社は主に東京都などからの委託により都内で道路整備や維持管理を行い、道路施設の見学ツアーなどを企画・運営しています。

 今回の見学ツアーは東京都道路整備保全公社主催、東京都第三建設事務所の協力で催されました。井荻トンネル見学ツアーは今回で2回目となり、倍率50倍の750人が応募、当選した15名が参加しました。14時、西武新宿線井荻駅に集合した参加者は中央分離帯内を進み、井荻トンネル南換気所へ移動します。

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 井荻トンネル南換気所は自動車の排気ガスを設備内へ引き込み、排気ガスに含まれる浮遊粒子状物質(SPM)を除去・低減した後、地上35mの換気塔を介して大気中に放出する施設です。井荻トンネルでは西武新宿線を挟んで南北に分けて、中央分離帯内に南換気所と北換気所の2か所を設置しています。

 換気所に併設する管理所のエントランスに入りました。

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 トンネル整備当時に作製された井荻トンネルの模型を展示しています。トンネルを側面から見ると、トンネルと地上の間に様々な設備が備わっていることがわかります。トンネル上部に設置されているジェットファンと排風機でトンネルの換気を行っています。

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 換気は、交通換気力を利用した一方向通行(環八通りの内廻り・外廻り車線)で分離排気する、排煙ダクト付縦流式集中排気方式を採用しています。

 断面から見たトンネルです。トンネル下部には水道管などのインフラが通っています。

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 管理所内会議室で、公社職員および東京都第三建設事務所職員による挨拶と、井荻トンネルの概要や管理について説明が行われました。

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 管理所内見学としてまず、監視室を見ます。監視室ではトンネル内に設置されている79台の監視カメラを用いて24時間365日監視し、事故等の緊急対応にあたるほか、通行量等に応じて換気設備の運転操作を行っています。

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 地下の非常用発電機室へ移動します。停電に備えて設置されている非常用発電機は、船舶で使用する規模のディーゼルエンジンを使用しています。停電が発生した際には非常用発電機が起動し、発電した電力によってトンネルの機能を維持します。いつ停電が発生してもすぐに起動できるようプレヒート(予熱)されていて、触れると温かいことがわかります。過去に2回停電が発生し、いずれも正常に稼働しました。

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 非常用発電機室の隣にある消火ポンプ室には、360トンの水を常時蓄える消火水槽を設置しています。トンネル内で火災が発生した場合は消火ポンプを起動し、水槽の水をトンネル内の消火栓・水噴霧設備等に供給して消火します。

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 階段を通り、下水道管を跨ぎます。

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 排風機と排風機室が備わる区域に着きました。

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 トンネル内を換気するための排風機です。トンネルの両坑口から新鮮な空気を吸い込み、交通量、風向風速、煙霧透過率、一酸化炭素濃度等の計測データを指標として、交通状況に応じた換気風量で排気ガスを排出します。トンネル内で火災が発生した際には、トンネル内を所定の風速に保ち、排煙設備として煙を外部へ排出する役割も持っています。

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 排風機によって、排気ガスは除じん装置が備わる空間へ吸い込まれます。

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 除じん装置が備わる空間に移動します。除じん装置のフィルターを通った排気ガスは、ろ過され、排風機で大気へ放出されます。

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 排気ガスの浮遊物を吸着する、除じん装置のフィルターです。フィルターのメンテナンスは日常の定期点検に加え、高圧のエアーを吹き付け大型の掃除機で吸い取る収集フィルターの再生・粉じん除去を月2回のペースで行います。

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 排風機の換気ファンは直径2.5m、1秒間に123m³を排出する能力を持ち、トンネルには内廻り4台・外廻り4台の合計8台を設置しています。井荻トンネルは、幅8.25m x 高さ5.04m x 延長1,263mとして全体で52,515m³の空間があるため、換気ファン4台を同時に運転すると約1.7分でトンネル内の空気を入れ替えることができることになります。

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 ろ過された空気は排風機室の消音装置で排風時の騒音低減を図るため、周辺への騒音は抑えられます。

 地下2階まで階段を下ります。

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 非常口扉の先には、間近で車両が走行しています。

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 右側には非常駐車帯と、壁面には避難口が設置されています。普段、体感することがないトンネル内を走行する車両の風圧を感じることができます。

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 トンネルの設備として、監視室、警察署、消防署へ連絡する非常電話、緊急事態が発生した際にトンネル内利用者に情報を伝えるラジオ再放送拡声設備、火災を感知し監視室に伝える火災検知器、トンネルの外へ避難するための避難通路、火災発生時に初期消化で使用する泡消火栓、大規模火災になったとき使用する水噴霧設備などがあります。情報を発信する警報表示板は入口とトンネル内に13面設置しています。

 換気ファンを筆頭に照明や排水ポンプなど、総合して年間約1億円の電気代が発生しています。電気代の一般家庭での全国平均は年間10万円程度とされているので、トンネルの規模の大きさがわかります。

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 2019年から2023年の間、井荻・練馬トンネルにて発生した交通事故は年平均値で112件、交通事故の他に落下物や故障車などの対応を合わせた緊急出動は年平均値504件でした。注意喚起の看板設置などにより、交通事故件数は減少傾向にあります。トンネル火災は開通以来一度も発生していません。

 最後に、階段を上って地上非常口へ向かいます。トンネル内で火災等の非常事態が発生した際に、実際に避難で使用されます。

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 扉を抜けると、地上部へ出ることができました。

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 見学の参加者からは「あの高い塔が何のためにあるのか、ようやくわかってスッキリした」「トンネルがつくられた理由や保守する大変さを理解できた」との声が聞かれました。東京都道路整備保全公社では今後も見学会を継続して開催し、多くの利用者に理解を深めてもらうということです。