リニア中央新幹線と工事への理解を地元住民や多くの人々に深めてもらうため、2024年11月9日と10日の両日、「さがみはらリニアフェスタ」が中央新幹線 神奈川県駅(仮称)新設工事の現場で催されました。初日の9日に取材しました。
JR東海が事業を進めるリニア中央新幹線は時速約500kmで走行する超電導リニアモーターカーにより、品川ー名古屋間を最速で40分、品川駅ー大阪間を最速67分で結ぶ新幹線です。品川駅ー神奈川県駅ー(山梨リニア実験線)ー山梨県駅ー長野県駅ー岐阜県駅ー名古屋駅を結びます。(中間駅は仮称)
会場はJR・京王電鉄橋本駅南口近くの中央新幹線 神奈川県駅(仮称)新設工事現場内(相模原市緑区橋本2丁目)になります。
参加は無料、会場への入場は2024年10月28日10時からサイトでの事前申し込みが必要で、9日、10日とも10時30分から16時30分まで2時間区切りで各日約3千人分のチケットが用意されました。9日の10時30分からの分は「通常チケット」と河村隆一氏のライブを観覧できる「地下ステージ入場券付きチケット」があり、通常チケットは申込開始から数時間程度、入場券付きチケットは5分程度で満席になりました。
神奈川県駅での一般向けのイベントは過去、2回開催されています。
入場ゲートから入ります。主催は神奈川県、相模原市、JR東海です。
会場には地下工事現場内特設ステージでのパフォーマンス、プロジェクションマッピング、地上ステージ、さがみはらリニアひろば、体験・展示コーナー、展示ブースが用意されています。特設ステージと地上ステージでは、JR東海音楽クラブをはじめとした数々の音楽グループの演奏を楽しむことができます。
リニアフェスタ会場の地図 資料:JR東海
地下約30mの地下工事現場内特設ステージへ向かいます。
地下工事現場内に進みます。特設ステージへの通路が用意されています。
支保工が複雑に組まれています。
11時、神奈川県知事 黒岩祐治氏、相模原市長 本村賢太郎氏、JR東海代表取締役副社長 水野孝則氏による開会セレモニーが地下工事現場内特設ステージで始まりました。
黒岩県知事は「神奈川県駅は3年後に完成する予定で工事が進んでいるが、とある事情により残念ながらリニア開通まで10年くらい時間がかかることになってしまった。10年間も巨大な空間がこのままになってしまうのはもったいない。神奈川県駅の空間を有効活用するため、エンターテインメントの拠点にできないかと考えた。JR東海の協力で、その第一歩を踏み出すことができた」と力強く語りました。
10分ほどの挨拶の後、黒岩県知事とLUNA SEAの河村隆一氏によるトークに移りました。かながわ観光親善大使でもある河村氏はトークの中で「自分は神奈川県出身で、よくこの現場の近くを通っていたが、こんな地下が広がっていることに驚いた。ロボットやAIの拠点として、さがみはらは世界に向けて飛躍していってほしい」と述べました。
開会セレモニーの最後は河村隆一氏スペシャルライブです。1997年リリースの「I love you」と「Glass」の2曲をアコースティックバージョンで披露し、参加者は華麗な歌声に耳を傾けました。
一度、地上部へ戻り、あらためて地下約30mのプロジェクションマッピング会場まで移動します。
神奈川県駅は県立相原高校の移転跡地を中心とした、国道16号と交差する地下3層の大規模地下構造物です。駅部の大部分を開削工事で構築し、国道16号交差部は非開削トンネルにて構築。品川方の東端部は第一首都圏トンネルに接続し、名古屋方の西端部は第二首都圏トンネルに接続します。第二首都圏トンネルは、神奈川県駅の西端部から相模川までのトンネルです。
神奈川県駅の概要 資料:JR東海
地上部の桟橋から品川方を眺めます。地下中央の白色の構築物がリニア新幹線の本線になります。
地上部の桟橋から見る神奈川県駅の品川方
地下函体は延長約680m、最大幅約50m、深さ約30mで、ホーム2面、線路4線を構築します。現在は駅構造物の構築作業を進めています。
神奈川県駅の詳細 資料:JR東海
反対側となる名古屋方です。
地上部の桟橋から見る神奈川県駅の名古屋方
西側民地部、その先は国道16号交差部になります。そのさらに先から、第二首都圏トンネルのシールド機が発進する予定です。
品川方へのスロープを進み、掘削底面へ移動します。地盤の上層は安定した関東ローム層のため法切掘削部を構築しながら掘削し、その下層は砂や礫が多い砂礫層のため、地中連続壁を打ち掘削を進めました。
乾燥や霜などによる表面の崩れを防ぐコンクリートが壁面に吹き付けられていて、その様子がわかるように一部の地山を見せています。地山は硬く崩壊することがないため、ビニールシートでも同じ効果を得ることができます。
品川方の東端部に先に、第一首都圏トンネルのシールド機が到達します。昨年のリニアコンサートは、こちらに設置されたステージで演奏が行われました。
駅構造物の構築後、土の埋戻しを行います。土の埋戻しには工事現場に仮置きしている、掘削箇所の砂礫層の土を活用します。
本線上から見た、一段高いホーム側です。本線にてリニア車両が互いに時速500kmで対向することで相対速度が時速1,000kmになることを想定し、本線とホームを仕切る壁はかなり厚くなっています。鉄筋がない部分には乗降装置が設置されます。
スマートフォンでQRコードを読み込み、3DARで完成後の風景を見ることができます。ARコンテンツは4種類用意されていました。
リニア車両が走る神奈川県駅本線を3DARで表示
支保工が組まれた西側民地部を約150mほど進みます。
開会セレモニーが開かれたステージを過ぎると、ヘルメットゾーンに入ります。ここから先はヘルメットを被る必要があります。
通路をさらに進みます。
国道16号交差部トンネルの立坑が見えてきました。
国道16号交差部トンネルの坑口です。縦16m、横18m、奥行約65mあります。
国道16号交差部は分岐設置のため、立坑を支保工(切梁・アンカー併用)で土留壁の変形を抑止しながら掘削した後、非開削工法(URT工法)で大断面トンネルを構築。トンネルの壁となるエレメントでトンネル躯体を構築し、内部を掘削してトンネルが完成しました。
国道16号交差部トンネルの概要 資料:JR東海
トンネルの奥では、9分ほどのプロジェクションマッピングを観ることができます。
プロジェクションマッピングの動画です。
地上部へ戻る途中の壁面には、リニア開通に向けてのメッセージのほか、多摩美術大学の学生の絵が展示されていました。
地上部へ戻りました。神奈川県が推進する「さがみロボット産業特区」の展示スペースでは、生活支援ロボットの実演をしています。
駅の工事で発生した土を仮置きし、上部を「さがみはらリニアひろば」として一般に開放しています。毎週金曜日および第1・第3・第5土曜日の10時〜16時に入園可能で、工事の現場を見渡すことができます。
広場からは工事全体を俯瞰することができます。
広場の中央には、トンネルで使用するセグメントと同じ大きさのベンチを備えています。
リニア工事ブースではペーパークラフトやシールド工法の説明映像など、さまざまなコーナーが用意されています。
鉄筋コンクリートを打設する際、鉄筋が動かないよう固定するスペーサーと呼ばれる部材に、リニア開通に向けてのメッセージを描くことができます。スペーサーは工事で使用し、神奈川県駅の一部になります。
リニア中央新幹線について、JR東海は開業時期を未定としています。静岡県での工事に10年程度かかった場合、開業は2034年以降になる計算です。
■工事の概要
施工場所:相模原市緑区橋本2丁目ほか
工期:2019年6月26日〜2027年3月31日
発注者:東海旅客鉄道株式会社
受注者:中央新幹線神奈川県駅(仮称)新設工事共同企業体 (代表構成員:株式会社奥村組) (構成員:東急建設株式会社、京王建設株式会社)