東京・日本橋川周辺では、まちづくりと連携して、老朽化した首都高速道路を地下ルートで整備する事業が進んでいます。この事業により日本橋川周辺の景観や環境の改善が図られ、日本橋が新しい「まち」として生まれ変わります。
日本橋区間地下化事業の完成イメージ 出所:首都高速道路(株)
●事業概要
事業実施中の日本橋区間地下化を含めて、日本橋周辺では首都高速道路の複合した整備を予定しています。
・日本橋区間地下化(事業実施中):都心環状線(C1)神田橋JCT─江戸橋JCTを地下ルートで整備
・新京橋連結路:都心環状線(築地川区間)と八重洲線を結ぶ路線として整備
・築地川区間:現行基準に合った擁壁に造り替える更新事業を実施
日本橋周辺で進められる首都高速道路の整備 出所:首都高速道路(株)
日本橋区間地下化は、神田橋JCTから江戸橋JCTまでの約1.8kmを地下ルートで整備します。そのうちの約1.1kmが掘削トンネルやシールドトンネルなどのトンネル構造、約0.3kmが擁壁・堀割構造、約0.4kmが高架構造になります。
日本橋区間地下化事業の概要 出所:首都高速道路
工事は区間を以下の3つに分割して、同時に進行します。
(1)常盤橋地区トンネル工事区間
長期通行止めにした既設の八重洲線を使用し、JR線を越えた先から八重洲線の一部を改築して新ルートへの分岐を構築
(2)シールドトンネル工事区間
江戸橋側から発進するシールド機で地下鉄や多数の重要な地下埋設物をかわしながら、再開発エリアや日本橋川の下を通過しトンネルを構築
(3)6号向島線接続地区高架橋工事区間
地下から江戸橋JCTの東側で現在の高架橋を更新して6号向島線に接続
いずれの工区も地下鉄や上下水道管、ガス管、電線などのライフラインが入り組んでいるため、難しい工事になります。
2021年5月から呉服橋・江戸橋出入口を廃止し、約3年をかけて出入口の撤去が完了しました。これにより日本橋川に約1割の青空が戻っています。
八重洲線に接続している東京高速道路(KK線)は自動車専用道路から歩行者中心の公共的空間に転換する再生事業のため、2025年4月5日20時をもって廃止になりました。同年4月19日には、車のための場所から人のための場所に生まれ変わることを披露するイベントが開催されています。
日本橋区間地下化事業および東京高速道路(KK線)再生事業に伴い、下記の区間は利用できなくなりました。
長期通行止め区間と廃止区間 出所:首都高速道路
<長期通行止(2035年度まで)>
八重洲線 神田橋JCT─西銀座JCT
八重洲出入口・丸の内出口
<廃止>
東京高速道路(KK線) 京橋JCT付近─汐留JCT付近
新京橋出口・西銀座入口・土橋入口・新橋出入口
汐留出入口、東銀座出口は、これまで通り利用できます。
●現場公開
八重洲線が通行止めになってから約3週間後の2025年4月20日、常盤橋地区トンネル工事区間となる八重洲トンネルの坑口部や内部(今後、新たな地下ルートとして改築工事を行う予定の区間)が公開されました。
八重洲線の本線から、神田橋JCT方面を見ます。高架の路線は日本橋川の上空を通る都心環状線で、地下ルート開通後に撤去します。
振り返って江戸橋JCT方面を見ます。将来の地下ルートの入り口になる、八重洲トンネルの坑口部があります。
八重洲線の八重洲トンネル坑口部
トンネル上部には常盤橋換気所が建っています。現在は高さ約40mあり、地下化工事に伴い高さ70mほどに改築します。
八重洲線の常盤橋換気所
トンネルの銘板も見納めになります。
八重洲線の外回りを進みます。壁面の扉は常盤橋換気所に繋がっています。
Uターン路では八重洲線の内回りを確認できます。
●工事詳細
常盤橋地区では、3つの止めない「1.交通の流れを止めない」「2.歴史の流れを止めない」「3.日本橋川の流れを止めない」を掲げてトンネル工事を進めます。
1.交通の流れを止めない
地上部から施工が可能な範囲は、地上に蓋をして、街路交通の流れを止めずに開削工事を行います。
常盤橋地区における開削工事区間の施工方法 出所:首都高速道路(株)
2.歴史の流れを止めない
常盤橋地区には、かつての江戸城の城門跡や1877年(明治10年)に架橋した石造りの常磐橋があります。地上の文化財を守る観点から、地上部を掘削することなく、既設の八重洲トンネルの中から地中を掘リ広げる非開削工法で新しいトンネルを構築します。
常盤橋地区における非開削工法区間の施工方法 出所:首都高速道路(株)
3.日本橋川の流れを止めない
日本橋川直下にトンネルを構築する部分では、地上から川を広範囲に堰き止めると水位が上昇してしまい、治水上の安全確保に支障をきたすため地上からの開削工事が困難になります。そこで川底に鉄樋(てっぴ)と呼ばれる鋼製の床を敷設し、川の流れを保ちつつ、その下で安全に工事を実施します。この「鉄樋工法」のほか、地中で基礎を受け換える「アンダーピニング工法」、小型の掘削機を立坑からジャッキで推進し掘り進めながら鋼殻の仮設躯体を構築する「ハーモニカ工法」を併用して作業を進めます。
常盤橋地区における日本橋川直下での施工方法 出所:首都高速道路(株)
神田橋JCTとして、都心環状線から八重洲線へ分岐する箇所を設けるため、トンネルを拡幅します。拡幅する箇所の完成イメージです。
地下ルートのイメージ(上:整備前 下:整備後) 提供:首都高速道路(株)
日本橋区間の地下ルートは、2035年度の完成を目指します。完成後は地下ルートの完成により空間的な余裕が生まれ、路肩が広くなり安全性が向上します。また、江戸橋JCTの連結路を廃止し新京橋連結路を活用した新たな環状ルートを整備することで江戸橋JCTに集中した交通が分散し、交通状況が改善します。2040年度までには現在の都心環状線の高架部を撤去する予定です。
首都高速道路株式会社 更新・建設局の清野勝局長は「更新事業に携わるものとして、昭和の先輩が築いた首都高速道路ネットワークを100年先に繋げることが使命と考え、誇りを持って事業を進めていく。日本橋地下化事業は壮大な事業だが、さまざまな課題に配慮しながら安全に工事を進めていく」と語りました。