洪水から街を守る仕事体験 in 荒川(アウト オブ キッザニア 国土交通省関東地方整備局)

河川

水防災の普及啓発を目的に、子供を対象とした「洪水から街を守る仕事体験 in 荒川」が開催されました。
国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所と、こどもの職業体験施設キッザニア(KidZania)による初の連携プログラムです。

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夏から秋にかけて、大雨による大きな被害が続きます。2018年は「平成30年7月豪雨」により、河川の氾濫や土砂災害などの甚大な被害が西日本を中心とした全国に及びました。

豪雨の被害を最小限にとどめるためには日常生活の中で大雨に備えることが必要です。しかし周辺の地域環境を把握し、家族や知人であらかじめ行動を決めておく必要性は分かっていても、具体的に何をすべきかを考える機会は少ないことが現実です。
洪水から街を守る仕事体験 in 荒川では、荒川周辺の洪水対策を題材にして、「水防災にどう取り組むか」を体験しながら学習します。

2018年10月28日、あらかじめ応募した小学3年生から中学3年生までの子供と保護者は荒川下流河川事務所と東京都北区が管理する荒川知水資料館(アモア)に集合しました。3回に分けて合計74名が参加します。参加費は無料となっています。

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プログラムは、国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所主催、キッザニアの企画・運営するKCJ GROUP株式会社監修によるものです。
荒川下流河川事務所は「荒川の変化を観察し、生活する人の安全を支える」「定期的な点検、維持管理をする」という役割を担っています。またキッザニアは、子供だけが参加できる職業体験のテーマパークです。国土交通省の仕事をキッザニアの「体験する」という仕組みで学ぶ連携プログラムになります。

荒川下流河川事務所ではかねてより、治水事業や水防災意識向上を目指した広報を行っています。今回、キッザニアに対し職業体験として実施できないか相談し、実施するに至りました。荒川下流河川事務所とキッザニア双方において、初めての事例になります。荒川下流河川事務所で別途委託している広報啓発活動補助業務の一環として実施し、荒川下流河川事務所とキッザニアに直接の契約関係はありません。

参加する子供たちは、荒川下流河川事務所の新人職員として仕事を体験します。いつ起こるかわからない自然災害について知り、対応するための仕事として洪水対策訓練を行います。また、職員として知った知識をもとに、自分の身近に起こることを想定して「マイ・タイムライン(事前防災行動計画)」をつくります。

最初は、グループに分かれて交代で知水資料館を見学します。

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荒川(現在の隅田川)は、江戸時代から明治時代にかけて頻繁に洪水が発生していました。1910年の洪水で甚大な被害が発生したことを契機として、人工の川となる荒川放水路事業が1911年に着手されました。上流から流れてくる荒川の水を隅田川と荒川放水路に分けることで、隅田川に集中していた水量を減らしたのです。

荒川の河口から上流22kmまでの間が、人工的につくられた荒川放水路です。計画時は4つのルート候補があり、効果や実現性などの背景から現在のルートが採用されました。人力や機械、船を駆使した大規模な開削工事となり、掘削した土砂の総量は東京ドーム18杯分にもなります。

1930年の完成以降、流域の人口増加や産業の発展に伴って地下水の汲み上げが行われ、地面が沈む「地盤沈下」が発生してしまいました。地盤沈下により、氾濫が起きた際の被害が大きくなりました。

色別標高図を見ると、荒川下流域の地盤の低さがわかります。

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荒川放水路がなかった場合、2007年に首都圏を襲った台風9号では浸水域が広い範囲に及び、被害額は東日本大震災にも匹敵する約14兆円だったと推定されています。

知水資料館のテラスからは、青水門と呼ばれる岩淵水門、荒川放水路を一望できます。写真の左側が上流、右側が下流です。岩淵水門より上流が荒川、岩淵水門より下流が隅田川となります。

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1924年、隅田川の増水を防ぐため、荒川放水路と隅田川の分派点に赤水門と呼ばれる旧岩淵水門を設けました。老朽化および水門の高さの不足から旧岩淵水門は役割を終え、1982年には現在の岩淵水門が竣工しました。赤水門は近代化産業遺産として残されています。

模型を使った水門の実験を見ます。

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大雨で荒川上流からの流量が増えた際、岩淵水門を閉めることで、隅田川への流入を制限できることがわかります。

災害対策室へ移動し、仕事体験として洪水対応訓練が始まりました。
参加した子供たちは2人1組となり、支部長の下で「支部運用班」「情報管理班」「電気通信(調査予報)班」のグループに分かれます。

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大雨で荒川の水位が上昇することを想定します。水位の確認、岩淵水門閉鎖、水防団出動の連絡など、プロセスは多岐に渡ります。
落ち着いて行動すること、協力して取り組むことが促されました。

グループごとの役割と連携を意識しつつ、時間の経過に沿って訓練が進みます。

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支部運用班:報告された情報をもとに正しい情報を的確な相手に伝達
雨量と水位の確認→水門閉鎖の各所への連絡・お知らせ文作成(FAX・Twitter)→連絡・お知らせ文の支部長決裁→水門閉鎖連絡のTwitter発信→(岩淵水門閉鎖)→水防警報の連絡・お知らせ文作成→連絡・お知らせ文の支部長決裁→水防警報のTwitter発信

情報管理班:情報の整理・冷静な状況把握と記録
電気通信班の雨量と水位を記録→流域自治体に水門閉鎖のFAX配信と受信電話確認→(岩淵水門閉鎖)→雨量と水位を記載→水防警報の記録(FAX・Twitter)→水防警報のFAX配信と受信電話確認→水防警報連絡を記載

電気通信(調査予報)班:素早く正確な情報を集めて報告・水門などの操作
水位と雨量を確認→水門閉鎖のため支部長に報告→水門閉鎖を近隣の方に伝える→(岩淵水門閉鎖)→雨量と水位の確認→支部運用班に連絡→ライブカメラ操作により確認と状況変化の監視

刻々と変化する時間雨量や累加雨量、河川の水位など、情報は絶え間なくスクリーンに表示されていきます。

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荒川における水位を理解します。東京湾霊岸島の水位観測所に設置された量水標の水位を基準として、A.P.(Arakawa Peil)という基本水準面を設定し、水面の高さを数値化しています。荒川と隅田川の間の堤防高はA.P.+12.5mとなっています。水防団待機水位は3.0m、氾濫注意水位は4.1m、避難判断水位は6.5m、氾濫危険水位は7.7mです。

情報を精査し、支部長に提出する岩淵水門閉鎖願を電気通信(調査予報)班が作成します。

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「電気通信班です。現在の岩淵水門の水位は4.0m、雨量は26mmで氾濫注意水位に達し、この後も水位が上がる見込みのため、14時30分に岩淵水門を閉鎖します。決裁をお願いします」などの岩淵水門閉鎖願を読み上げます。

支部長の決裁により、岩淵水門を閉鎖します。

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スクリーンにも岩淵水門閉鎖の状態が映し出されました。

災害時の行動計画であるマイ・タイムラインの作成へ移ります。
一般的なタイムラインは、災害が発生することを前提として、防災関係機関が災害時に行う防災行動を時系列に沿ってとりまとめたものです。「いつ」「何を」「誰が」を明確にすることで、防災力の向上に役立ちます。今回は、そのタイムラインを各人の生活状況に合わせて作成することで、「どのような準備が必要か」「どのタイミング逃げるか」を検証します。

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家族構成、家が水に浸かる深さ、逃げる場所、洪水が起きそうな時の行動例を書き込んでいきます。乳児や老人など家族の状態やペットの有無など、考えておくべき項目が多くあることに気づかされます。

最後に、完成させたマイ・タイムラインを発表します。短い時間の中でもしっかりした発表が続きました。

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「洪水から街を守る仕事体験 in 荒川」はここまでとなります。

今回の連携プログラムを振り返り、荒川下流河川事務所から次のような見解を得ました。
「今回のキッザニアとの連携で、国土交通省の水災害対策の仕事体験に子供たちが主体的に参加するプログラムとなったことで、より深い認識がはかれたものと考えている。また、先輩職員として参加した事務所職員は、子どもたちが自分たちで考えることを促すキッザニアのノウハウを得ることができた。荒川下流河川事務所では今後、継続的に今回と同様の取り組みを行うことを検討している。今回のイベントのノウハウを生かし、今後も近隣の学校などを対象に水防災の普及啓発を展開したい。」

荒川下流河川事務所とキッザニアは事前の準備として、荒川下流河川事務所は会場準備、説明を含めた当日の運営、キッザニアはプログラム監修、広報活動、運営研修(豊洲でのキッザニアパビリオンでの研修や事前リハーサルでの研修)を行いました。その他の体験メニューとしては河川巡視なども考えましたが、防災意識向上の目的や実施場所等等考慮した結果、今回実施した内容となったとのことです。

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子供たちからは「大雨の時にやるべきことがわかった」「体験できたことがよかった」といった声が寄せられました。話を聞くだけでは会得できない防災意識を身につける、絶好の機会だったのではないでしょうか。

参考:国土交通省 関東地方整備局 荒川下流河川事務所