霞ヶ浦導水事業は利根川・霞ヶ浦・那珂川を地下トンネルで結び、水を相互に行き来させることで、霞ヶ浦や水戸市を流れる桜川や千波湖における水質の向上、利根川と那珂川の水不足の解消、飲み水や工場で使用する水を確保する事業です。2024年12月21日に催された現場見学会を取材しました。
見学の現場は、霞ヶ浦導水の石岡トンネル第5工区の「玉里たて坑」(茨城県小美玉市上玉里)になります。
見学会は午前と午後の2回催され、事前に申し込んだ約65人が参加しました。まずは、たて坑の事務所でクイズなどを交えて霞ヶ浦導水事業の概要説明を受けます。
霞ヶ浦の周辺には那珂川・桜川・利根川が流れます。これらをトンネルでつなぎ、那珂川と利根川の水を行き来させることで、以下のような効果があります。
・霞ヶ浦や桜川の水をきれいにする
・那珂川や利根川の水不足を減らす
・水道用水や工業用水を確保する
関東を流れる河川と霞ヶ浦導水の位置 資料:霞ヶ浦導水工事事務所
霞ヶ浦導水は地下約20m〜50mのトンネルで、形式は地下水路圧力管方式になります。那珂川・桜川・霞ヶ浦をつなぐ延長約43kmの那珂導水路と、霞ヶ浦と利根川をつなぐ延長約2.6kmの利根導水路などで構成します。約40年前の1984年に建設事業着手、完成予定は2030年度としています。
霞ヶ浦導水に関する模式図 資料:霞ヶ浦導水工事事務所
那珂導水路の一部となる石岡トンネルは延長約24.7kmで、うち2024年7月時点で約11.2kmが完成しています。工区を6つに分けて、現在は第3工区・第4工区・第5工区でトンネル掘削が進んでいます。見学する第5工区では茨城県小美玉市の玉里たて坑から「美野里たて坑」までの延長約4.5kmを、泥水式シールド工法によりトンネル構築しています。
霞ヶ浦導水事業の進捗状況(2024年7月時点) 資料:霞ヶ浦導水工事事務所
那珂機場や桜機場、水戸トンネルについては過去、以下のような見学会が催されました。
シールド機を操作する中央制御室へ移動します。
第5工区で掘削を進めているシールド機の模型を展示しています。シールド機の外径は4.04m、長さは7.9m、重量は約120t。シールド機先端のカッターヘッドで土砂を削り、同時に壁となる円筒のセグメントを後方に構築、セグメントを反力にしてシールドジャッキで前進していきます。シールド機は圧力をかけて地山の土水圧に対抗させ、切り羽(掘削面)の安定を図ります。推進力は1万5600kN(キロニュートン)、1600tの力で押して進みます。大阪の工場で製作し、現地で組み立てました。
掘削した土砂はシールド機前面のチャンバーに取り込み、地上から送泥管で送られる調整された泥水とともに排泥管を通り、地上へ搬出します。
シールド工法イメージ図 資料:奥村・大本特定建設工事共同企業体
シールド機の後方には、掘進に必要な機械類を搭載した後続台車が連なっています。後続台車はシールド機を動かす油圧ユニット、掘削土砂を流体輸送するポンプ設備、裏込め注入設備、休憩台車、トイレ台車、オフィス台車など30台で、約200mになります。シールド機は後続台車を引き連れてトンネルを延伸していきます。
中央制御室では、シールド機の運転操作やデータ集約などの掘進管理を遠隔で行います。
トンネルの壁となるセグメントは、防音ハウス内でストックしています。工場から現場にトレーラーで搬入し、たて坑から地下へ降ろしてセグメント台車に積み込み、バッテリー機関車(サーボロコ)に連結してシールド機へ搬送します。シールド機のエレクターで5ピースを組み合わせて1つのリングにし、外径3.9m、内径約3.5m、幅1350mm、厚さ200mmのトンネル断面を構築します。
セグメント1リングあたり重量は約10t。道路などのトンネルと異なり内部に大量の水が流れるため、外部からの圧力だけでなく内水圧にも対応できるセグメントを使用しています。
防音ハウスの中央にたて坑があります。1997年に構築したたて坑で工事で工事を進めています。
たて坑は直径約18m、深さは45.5mで、階段とエレベーターが備わっています。
エレベーターで地下へ移動します。
約1分ほどでたて坑の最下部に到着しました。
南側は、高浜機場へつながる第6工区のトンネルです。すでに完成しています。
北側は掘削が進む第5工区のトンネルです。第5工区のトンネルは、第6工区のトンネルと水戸方面から掘進してくる第4工区のトンネルを橋渡しします。
第5工区のトンネルを進みます。シールド機は玉里たて坑から工場地帯、国道355号、園部川を越えて美野里たて坑まで真っすぐに掘進します。
玉里たて坑から201.65m、150リング目の位置で、シールド機の後続台車の最後部が見えてきました。
プレストレスト・コンクリート(PC)セグメントと、鋼製の枠にコンクリートをした充填した合成セグメントが隣接している箇所があります。ここでは、地表までの深さや土質などにより異なる外圧(地山の土水圧)と内圧(チャンバーに送り込まれる泥水の圧力)との関係性や経済性を考慮して、セグメントを使い分けている。
中央制御室の補助として、後続台車には運転台車も備わっています。
シールド機の先端に到着しました。
送られてきたセグメントはエレクターを使って設置され、トンネルの外壁が構築されます。
セグメントは組み立て完了後、PC鋼より線を油圧モーターを用いたPC鋼線挿入装置で挿入します。PC鋼より線の挿入を完了した後、センターホールドジャッキの先端にRCチェアを取り付け緊張方向を円周方向に合わせてピース間を緊張、定着します。
防音ハウスの2階へ移動します。
シールド機から排泥管で防音ハウスへ送られた土砂を含んだ泥水は振動ふるいにかけられ、れきや砂といった一次処理土と二次処理土(シルト・粘土)を含んだ泥水に分けます。一次処理土は高崎地区の発生土置き場に運搬して、建設発生土として再利用します。
砂などを取り除いて送られた泥水は濃度を調整槽で調整し、シールド機へ送って再利用します。シルト・粘土分などが増えて濃くなった泥水は、加圧脱水機によりシルト・粘土分を取り除いた後、水素イオン濃度や濁度などを調整して放流。残った二次処理土は脱水ケーキと呼ばれ、産業廃棄物として最終処分場へ運んで処理します。
れきや砂は土砂ピットでストックし、油圧ショベルを使いダンプトラックに積み込んで搬出します。
参加者は現実と仮想空間を融合するクロスリアリティー(XR)体験により、シールド機の動く様子やトンネルの状況における理解を深めました。見学会の参加者からは「ネットや紙媒体では伝わらないことを直接見ることで理解できた」「スケールの大きさに驚いた」という声を聞くことができました。
事業者の国土交通省霞ケ浦導水工事事務所によると、石岡トンネルが完成することで水質浄化や水不足の軽減、安定的な水の確保が維持されます。事業にあたっては、細心の注意を図りながら工事と地域の安全安心を最優先に努めるとしています。
■工事の概要
工事名:R5霞ヶ浦導水石岡トンネル(第5工区)新設工事
工期:2023年6月3日〜2026年6月30日
工事場所:茨城県小美玉市上玉里地先─茨城県小美玉市三箇地先
延長:4,458m
発注者:国土交通省 関東地方整備局 霞ヶ浦導水工事事務所
施工者:奧村・大本 特定建設工事共同企業体