関越トンネルは、群馬県と新潟県を結ぶ関越道(E17関越自動車道)のトンネルです。
2018年8月24日、関越トンネルの裏側を見学するインフラモニターツアーに参加しました。
橋やダム、港などのインフラ(公共施設)を観光資源として活用する、インフラツーリズムと呼ばれる取り組みが全国で進んでいます。既存や工事中のインフラについて、従来のように管理者が主体的に見学会を実施するだけでなく、民間の旅行会社がツアーとして有料で催行しています。
NEXCO東日本の湯沢管理事務所が開催するのは、延長約11kmの山岳道路トンネル「関越トンネル」の裏側を見学するインフラモニターツアーです。普段は入ることができない避難坑を通って、谷川の湧き水試飲や電気室、地下換気所などを見学し、最後に高さ180mの換気塔を階段で登頂します。
今回、参加したツアーは料金1,480円(税込)で、モニターツアーのため特別価格となっています。25名の参加者は越後湯沢駅もしくは直接、関越道の土樽PA(上り線)に集合します。
関越トンネルのツアーには3名のコンシェルジュ(案内人)が在籍しています。NEXCO東日本の管理者も同行するため、トンネルについていつでも質問できます。
土樽PAから、隣接している関越トンネルの坑口を見ることができます。坑口のデザインは工業デザイナーの柳宗理氏によるものです。
延長は上り線が11,055m、下り線は10,926mです。国内の道路トンネルとしては、延長18,200mの首都高速中央環状線の山手トンネルに次いで第2位の長さ、山岳道路トンネルとしては日本最長になっています。
1977年に工事着手、1985年10月2日に片側1車線の対面通行で開通、1991年7月12日に上り線が完成することで4車線になりました。
土樽PAに掲示されている非常時の安全心得から、関越トンネルの構造がわかります。
本線となる上り線と下り線それぞれのトンネルの間には、並行して避難トンネルとなる避難坑が通っています。本線で火災が発生した際は、非常口から避難連絡坑へ移動して避難坑を通り、谷川岳PAもしくは土樽PAへ脱出します。これまで、避難坑を使って避難する事故は発生していません。
上り線は750m、下り線は350m間隔で、避難連絡坑が本線と避難坑を網の目のようにつないでいます。人道用として31か所、車道用として3か所、設置しています。
長大なトンネルには、トンネル内の排気ガスをトンネルの外へ排出し、きれいな空気をトンネル内に取り込む換気所を設置します。関越トンネルには、水上側から3,738m地点に谷川地下換気所、湯沢側から2,968m地点に万太郎地下換気所を設けています。
換気所と外の空気は、たて坑と呼ばれるたて穴を通じて行き来します。たて坑は、谷川岳の低い地点に構築しました。谷川谷に掘られた谷川たて坑は地下約180m、万太郎谷に掘られた万太郎たて坑は地下約194mあり、それぞれ地上部に約40mの換気塔が建っています。
標高は、湯沢ICが約360m、土樽PAは約650m、トンネル内の最高地点は約697mです。
用意された自動車に分乗し、土樽PAから谷川岳PA方面へ避難坑を走行します。
避難坑は、地質調査と本線建設の作業用先進導坑として最初に掘られたトンネルです。幅員は4.7mあり、高さが2600mm以下の車両が通行できます。管理車両が頻繁に使用しています。
この日の照明はすべて点灯していますが、通常は経費節減のため4分の1の点灯となっています。
道路管理の目印として、車両用避難連絡坑の位置は赤色、万太郎地下換気所は青色、谷川地下換気は緑色の照明が点灯しています。万太郎地下換気所付近を通過します。
トンネルの掘削は、湧き水と山はねとの戦いでした。多量の湧き水が出て、また土被りが750m以上となる区間では山はねが発生し、掘削が何度も中断しました。山はねとは、高い圧力がかかっている山の中の硬い岩に発破をかけたことで、圧力が解放され、岩が跳ねてくる現象です。
20分ほど走行し、谷川地下換気所へ続く通路の坑口で下車します。緑色の照明が点灯しています。
ゲートを通過して、奥へ進みます。
地下水を飲むことができます。谷川岳に降った雨や雪解け水が約6年を経て湧き出るため、「谷川の六年水」と呼ばれます。pH値7.3~7.6の軟水です。谷川岳PAでも飲んで持ち帰ることが可能です。
気温は常に12度ほどで、人によっては肌寒く感じます。
谷川地下換気所へ向かって歩きます。
貯水槽分岐箇所です。右手が貯水槽、左手は電気室および換気所となります。貯水槽には、火災発生時に使用する消火用の水が溜められています。
電気室の入口に着きました。
電気室では、関越トンネルの設備で使用する電気を一元管理しています。異なる電力会社から2系統の電源を確保しているため、停電することなく、トンネルの施設を稼働できます。
谷川地下換気所に着きました。トンネル内の排気ガスをきれいな空気にして一部をトンネルの外へ排出し、きれいな空気を取り込む施設です。左手の通路は、下り線につながっています。
現在地をパネルで確認します。降車場所→六年水→貯水槽分岐箇所→電気室→換気所と進んできました。
換気所には、巨大な換気ファンが並びます。換気方式は、下り線開通時の対面交通において当時では世界でも例を見ない「電気集塵機付立坑送排気縦流換気方式」を採用しました。また、換気運転制御は、今では「MPVC(交通量予測レギュレータ)」を採用しています。
トンネル内からの排気ガスは黄色の排風機を通って、換気塔から放たれます。換気塔から給気した空気は青色の送風機を通り、トンネル内へ送られます。換気機を効率的に動かすことにより、トンネル内の環境が適正に保たれています。
換気所を抜けて、換気塔へ向かいます。気圧差があるため、小部屋を挟んだ二重扉を抜けます。
扉の先には、空気を送り込む巨大なファンが設置されています。ファンの向こう側は青色の送風機があります。
空気は、風洞と呼ばれる通路を抜けて、立坑から本線へと送られます。
排気の空気と給気の空気が、壁を隔てて分けられています。
300mほど歩くと、換気塔の真下に着きました。排気する空気は、左側にある壁の反対側にある風洞を通って塔の上部へ送られます。給気する空気は、塔の上部から通路を通って送られます。
立坑は、地上から掘るのではなく、地下から掘り上げました。立坑の下から掘り上がっていくアリマッククライマー工法です。人が機械に乗って発破し、上から落ちてくる岩石を屋根で避けながら上向きに削岩しました。
通常であれば地上から立坑を掘り、地上にズリと呼ばれる土砂を運び上げます。関越トンネルでは周囲に道路がなく運び出すことができないため、土砂は下に落としました。
少し戻った小さな扉を抜けてさらに進むと、換気塔の地上部へ行き来する階段が見えてきました。
階段には、大量の水が滴り落ちています。健脚な人から順番に階段を上ります。
高さ約180m、600段の階段を上ります。途中の150m位から水の滴りはなくなり、気温が上がってきました。
約25分かかって、なんとか180mを上りました。
東京タワーでは毎週土・日・祝日に高さ150mのメインデッキへの600段の上り階段を開放していますが、谷川地下換気塔の上りは比較にならないほど疲労します。
通路を抜けて、換気塔へ移動します。
換気塔の内部にたどり着きました。外部への扉をくぐります。
塔の外では、谷川岳を一望できます。ここでの標高は869mです。
谷川地下換気所の換気塔です。高さは約40mあり、上部から空気を排出し、傘状になっている箇所の下側から給気します。
先ほど上った階段がある箇所がわかります。
記念撮影をした後、180mの階段を下りて戻ります。
避難坑まで戻り、車で谷川岳PA付近の坑口へ移動します。本線トンネルと避難坑をまとめて見ることができます。
再び記念撮影し、土樽PAへ戻ります。
「関越道 関越トンネルモニターツアー」はここまでとなります。
参加者には、関越トンネルにまつわる3種類のトンネルカードが配布されました。うち1種類の谷川たて坑のカードは、谷川地下換気所の換気塔を見た人だけが手にできます。
関越トンネルモニターツアーは今後も引き続き開催されます。